スコーフ

差し入れ。
突然顔を出した一人の女に皆の視線が集中する。


「だっ、誰!?」
「名前は!?」
「つーか俺に?」


両手一杯のペットボトル、女は笑う。


「試合、頑張ってるね」


その声に反応出来ない男が、一人だけいた。













「ねえ明日は?」
「明日?」
「あたし仕事ないし、」
「明日は用事あるし、」
「用事って?」
「・・・あれ、」
「あれって?」
「わ・・・・・」


若菜達と会うんだよ。
間違いはないと岡田は思う。













最近暇だと言える時間がなくなり
何かしら打ち込める事が出来たという事は
非常に健康的だと、練習試合もそれ同様だ。
今日も同じくどこぞやの高校との
練習試合が行われ岡田は試合へと。


「あの・・・」
「はい、」


スコアをつけていた塔子に
アクエリアスのペットボトルを手渡した女は
ニコリと微笑む、
そうして女は視線を川藤の方へと。


「あの、失礼ですが・・・・」
「あ、申し送れました―」
「ちょっ・・・馬鹿女!!!!」


グラウンドに轟く程の声、女がクスリと笑う。
声の主は岡田―
日焼け以上に顔を赤くした岡田が女の手を取った。













打順は丁度桧山であり岡田の声に驚いている場合ではない、
泥だらけの身体、岡田は場を繕えず只手を握るだけだ。


「岡田お前なあ・・・」


わざわざ差し入れを持って来て下さった方に対して何という事を、
川藤の声すら耳には届かず―
何で来てんだよ、焦った表情はそれのみを表していた。


「何だよお前・・・・」
「もしかして・・・・・」


ベンチにいる皆が一様に顔を見合わせ再三岡田を見る、
見てんじゃねーよ、岡田が声を荒げようとも女は微動だにせず。


「よぉ、」
「あ、新庄君も野球部なんだ、」
「「「「何――!?」」」」


おい新庄どういう事だよ。
たまたま水場へ行っていた新庄はこの現状を知らず、
岡田を見れども微妙な状態なので何とも言えない。
何だよこいつら知らなかったのか?
カキン、金属バットの音が響いた。


「おい、岡田」
「んだよ!!」
「お前の打順、」
「・・・・!!!」
「頑張って」
「!!!!」


絶対に来るなと言っていたはずなのに。












ようやくは解放され皆の視線が一様に集まった。
ニコリと微笑み返す余裕すら漂わせたその女は
明らかに年上だ、年上のお姉さんだ。


「あの、もしかして・・・?」
「ふふ」
「マジっスか・・・・・・・・?」


驚きを隠せない若菜が曖昧な問い方をすれば
女は曖昧に答える、直球には聞けず―
そうこうしている内に塔子が名前を。


「あ。ごめんなさいって言います、」
、さん・・・・・」
「初めまして」


抜けるほど色の白い女だ。
無理に背伸びをしていないその様、
同年代とは違う纏まった感じが―
意外ながら岡田はこういうタイプが好みだったのか、
そんな事も今は関係がない。


「座ってたらどうだ?」
「新庄・・・・!?」
「あ、どうも」


新庄の隣に腰を下ろしたは何かしら談笑を始めるし
おいおい新庄そりゃ一体どういう事だおい―
色んな意味で聞けはしない。


「岡田のヤツ緊張してやがる、」
「馬鹿ねぇあいつ」


本当はずっと前から知っていたのだ。
突然雰囲気の変わった岡田に何かが起こったのだろうと。
以前宜しく頭の軽い高校生のままでも別に構いはしなかった、
只飽きるのが早いだけ、それは互いに。


「お、」


ナーイス岡田!!!
ヒットを放った岡田はファーストに、
ベンチ側を向かないあの男の胸中や如何に。













試合中ずっといる
岡田は動揺をひた隠しつつもベンチに戻れば、
否試合が終わった後の事を考えずにはいられない。
絶対来るんじゃねェって言っただろ俺は―
意外に隠し事が多くても気にすんなよ。
たまたまと一緒にいた所を見られたのが新庄であり
(しかも岡田の家両親不在時にたまたま来ていた新庄、
タイミング悪くそこにが来てしまったという
有り得ない顔合わせだった)
新庄は他言しはしない分よかった、
それからも顔を合わせたり、
何気に相談なんてしてみたり、
まあ、
色々と。













ニコガク勝利。
試合が終わってみれば
は各メンツと仲よくなっている―
マジ勘弁、岡田は少々項垂れた。


「岡田〜〜〜〜」


どういう事か説明してもらおうじゃねェか、
説明も何もねーよ馬鹿、
とっととを連れ帰りたい。


「頑張ってるね、高校球児」
「るせェ!!」
「照れんなよ〜〜〜」


ああ、
だから俺は。


「テメーさんに何て言葉使いだコラ!!」
「まず礼儀がなってねェ、」
「大体どんな出会いだこの野郎!!」


ああ、
ああ。


「ちょっ・・・ああ、クソッ!!」


の手を取り強引に歩いていく。
岡田は何も言わず。
そんな光景を笑いながら見ているメンバーが
夕日に照らされた。













「あんた何やってんだよ!!」
「試合見てたの、」
「だ〜から!!」


何で、
何でって見たいじゃない、
眼差しは嫌に真っ直ぐで岡田は言葉を飲み込む。


「ちょっと屈んで、」
「何?」
「いいから、」


初ユニフォーム姿にキスを。
格好よかったね、は笑う。
岡田は一瞬天を仰ぎ息を吐き、
そうして。
そうして
悪ぃ、
一言呟いた。













「やっ・・・野郎!!」
「よせって平ちゃん!!!」
「い〜よな〜〜〜年上のお姉さん、」
「あいつ戻って来たらぶっ殺す・・・」


覗き見の集団が存在した、岡田の影が増徴す。

川藤が出てる!
そしてこのサイト上の新庄のポジション!