エレジー

ずっと昔、
それこそここにいる人間の大半が
まだ発生すらしていなかった頃にまで時は遡る。
そんな昔に僅かな間ではあるが二人は恋人同志だったのかもしれない。
分からない最早思い出せる話ではなくなっている。
それなのに姿一つ変わらないのは
お互い様であり只記憶ばかりが薄れかけている、
愛はあったか、そんなものいつ生じた。
だから感情は変化を見せず確かな姿すら見せはしない、
これは何なのだろう何を求めた結果なのだろう―
神となり降臨したあの男はを見ず只逸らした。
だから尚更許せなくなっただけの話だ。




「邪魔するわ〜〜」
「出てけババア」
「うるさいわよワイパー」


ワイパーがまだ子供の頃に見かけた姿のままはそこにいる。
幼心ながらよくもまあここまで現実離れした美貌が
あったものだと感心した事を覚えている。
そうして歳月は過ぎワイパーは大人になった、はそのままだ。


「あんたもちっちゃい頃は可愛かったのにねぇ・・・」
「何の用だ」
「いつから可愛くなくなったのかしらねぇ・・・」


の眼差しは嫌に冷たくワイパーは悪寒すら覚えた。
瑠璃色の眼球は何をどううつしているのだろう
鏡を見ないは自分の姿をどう認識しているのだろう。
の素性を知っている者は
恐らくワイパーだけしかいないはずだ、ここには。
カマキリがに惚れていた、ワイパーは何も言えなかった。
言えない言葉ばかりが喉の奥で腐ってゆく、
の肌は腐らないが中身はどうだろう。


「あんたの仲間、」
「誰だよ」
「あたしもらってもいいの?」


どういう意味だ、ワイパーは顔を上げる。
あたしもらっていいの?あたしがもらわれてもいいの?
抜ける白さの肌がワイパーを問い詰める。
外ではカマキリがショウを探している、はテントを出ない。
この嘘吐き女、ガキ宜しく悪態が口を突いた。
お前が、お前が。
お前は嘘吐きだ。
この女の心の中に居座り続ける影は生涯消えはしないのに。


「あんたが嫌がるんならあたしは、」
「関係ねぇ」
「ワイパー?」
「俺にゃ一つとして関係ねぇよ」


の眼差しが僅かに歪んでいる、
悲しいか悔しいか切ないか憎いか。
胸が痛んだ。
だからどうした。




風の通り道に立った
アッパーヤードの方向を見つめている。
あの男はに目もくれず今に至る、
刹那淋しさが逃げ出し涙も消えた。
愛していたとは言えないだろう、
愛しているとは言えるか―
それも無理だ。
風が吹いている、は瞬きを。
あんまり長く生き過ぎている、
自分の寿命は果たしてどのくらいだっただろう
母国はあの放蕩者が壊してしまったから分からない。


「エネル、」


あんたが欲しいもの全てが手に入るとは限らないのよ、
この場所で古い唄を歌えば風に乗りあの男のもとへ届くだろうか。
届いたら届いたで一報くらい寄越せばいいのにあの馬鹿、
又カマキリが呼んでいる、
は振り返らず浮雲に乗り又姿を消す。
一度で終わるならそれでも構わない、
只終わる時はあの男の目の届く範囲で終わってやろう―
それがに出来る唯一の嫌がらせだ。

ワイパーもよく絡ませてましたよねえ。