もう何も

もうここには誰も入れない、カギをかけてそれで仕舞い。
傍観者なんていらないし第三者なんてもっといらないのだ、
だってここにはと喜助しかいらないのだから。
最初は興味本位だった、大人の男に近づいてみたそれだけの事。
誘いがあったからだし喜助という人間に
興味もあったから、好印象ではあった。
影のようにふと消えてしまうだろう。
分かっている、分かっている。
頭の中ではとても明確に理解出来ているつもりだ、
こころの問題は別としよう。
だって今は分からない事ですし。


「んー」
「甘えんぼうさんですね、は」
「だって、」


今しかないし、そう言い飲み込む言葉達。
床に座り込み喜助に向かい手を広げ口付けを受ける。
終始笑い声が絶えない空間なのだ、
二人ともやたら楽しそうにしている。何も考えず。


「どうします?」
「何が?」
「あたし以上の人はもういないですよ」
「・・・・・」


喜助は稀にそんな事を言う。
だからといって何を返す事も出来ないのは
分かっているからだ、それはそうだと。
少しだけ欺瞞過ぎるだろうとも思うが
惚れた惚気として許してもらおう。


「分かってる、」
「そうですか」
「ねェ、」
「幸せにおなりなさいよ、」


まったく無責任な喜助の発言と行動は毎回一致していない。
只この部屋にはやはり誰一人として入って欲しくなく
今日も今日でくだらない幸せの模造品を貪り食う。

最近本誌に登場しているので