ニューロンの涙

手の平が血で真っ赤に染まっていた。
正直少しだけ驚いている自分に尚更驚く。
はそんな周囲を見渡しながら平然と佇みつま先で屍を蹴っている。
何かが確実に間違っている、これは現実なのか。


「・・・何してるのエース」
「俺は、」
「あんたらしくないわね」


は冷たくそう言い放ちエースに背を向ける。
やけに突き放されたような気がして
エースはそんなを背後から強く抱き締めた。
妙に寒いし妙に淋しい、
もしかしたら間違ってんのかも知んねぇよ
唇で髪を書き上げそう囁けば
正しさって何よ、の声が無機質に響いた。









非常に素早い展開がエースの生活を網羅していた。
何よりも早く光よりも早くそれは光陰の如し。
間違いに等気づく暇もない、
成り上がりとも呼べるのかも知れない。
はエースよりも先に白ひげ海賊団にいたクルーであり
どこの部隊にも属さず単独行動を主にしていた。
彼女もある意味光陰の類なのかも知れない、
親父にも一目置かれる存在なのは明らかだ。
本当のところ何も知らないのかも知れない、
の存在に関してはまったく皆無に違いない。


「ちょっとエース、」


落ち込むのはあんたの勝手だけど迷惑なのよ、
は毅然とそう言い放ち
それこそ部屋から出て行けと言わんばかりだ。
今追い出されちゃ敵わねェ。
ベッドに横になったエースは片手だけで意思表示をし目を閉じた。
シャワーを浴び血も汗も何もかもを全て流し去ったはずなのに
何故手の平がこうも汚れているような気がするのだろうか。
俺は何も知らねェ、お前の事もこの世の事も全部。
たまにそう感じる。
は一本のラインから絶対に踏み込まないし踏み込ませない。
それが彼女なりの分け方だ、仲間以上になる事はないという事か。


、」
「何」



こっちに来いよ、どうせ眠れはしないのはお互い様だ、
血を見た後はどうやっても気分の高揚が取れない。
それはきっとも同じでだからエースはを呼ぶ。
洗い晒しの髪を靡かせたは一度だけエースの方を見て
それでも椅子から動きはしないしエースは未だ手を伸ばしたままだ。


「俺は凄ェぜ」
「何?」
「セックス、」


エッチ?何だっていいじゃねェかやる事は一緒だしな、
自分でも何を言っているのかが分からないが仕方がない。
今更そんな事言われても困るわね。
は報告書を書いているのか。
血に塗れた手が自分を見た瞬間呟いた。
あんたそういう生き物だ。
何となくそうかも知れないと思った。
その指の先にが立っていた。


「酒は、」
「昨日であんたが飲み尽くした」
「ハッパは」
「一昨日あんたが吸い尽くした」
「なぁ、」
「何?」
「なぁ」
「あと十秒待ってエース、」


見捨てんなよ
蛍光灯が余りにも眩しくエースは手の平で明かりを塞ぐ。
室内には二人分の煙が充満し開けられる事のない窓には薄っすらと埃が。
見捨てるも何もあんたは仲間よエース。
の言葉がやけに虚しい。


「何よエース、」


あんたもしかして止めて欲しいの?
ペンが欠く音だけが規則的に木霊しはそう呟いた。









エースの上でがゆっくりと口付ける。
ココが痛ェ、死ぬほど痛ェんだ、
指先で心臓の上を叩いたエースは仰向けになったままそう呟いている。
がそこに口付ければ目を閉じ痛ェわけねェよな、そう笑った。


「あんたいっつもそうね」
「ん?」
「動くの最初だけ、」


後は全然動かないし何もしないじゃない、
髪をかき上げたがそう言えばお前の重みが欲しくてね、
エースの手がの腰を掴む。
どうせ明日も血塗れになる予定の手の平だ、
どうこうするつもりはない。

コイツも以前書いていたヤツです。
多分、「俺は凄い」と言わせたかっただけ