無邪気に笑う残酷

神こそ全てだった。
特に過去形ではない今もそれは変わらないのだ。
貴方の為に、貴方の為に。
エネルはそんなをどう思っているのか、
恐らくはどうも思っていないに違いない。









小さな小さな子供の頃から目をかけた。
ある種実験のようなものだった。
自ら命を差し出し身を挺す駒を作りたかっただけだ、
その目論見は見事成功したと思われる。
は盲目的にエネルを崇拝し
気分のいいその状況に我が神も陶酔していた。
顔は覚えていないが下女の誰か―
そうだ下女の誰かの子だった。


「エネル様!!」
じゃあないか」
「お久しぶりです」


一時期よその国に行っていたらしい娘は、
遥かに成長を見せ戻って来た。
確かあの下女も相当の美貌を、
それを上回る容姿に満足しないわけもない。
光源氏計画、邪な考えが脳裏を横切る。


「只今戻りました」
「ああ、」


にこやかに笑うの目前、
エネルは林檎を一齧りしを見やる。
の背後には新たな養育係
(無論この神に押し付けられたに他ならない)神官が、
どれだけの能力を持ち戻って来たのかは分からないが
恐らくそれも予想以上に違いない。
神の御前にて失礼な真似を。
軽く窘められたは片膝をつきエネルを見上げた。


「・・・近くに、」
「?」
「顔をよく見せろ」


よく分からないような表情を見せながらもはエネルに近づく。
頬に触れた髪の手のひら、神官達が溜息を吐く手前エネルが笑った。









物心ついた辺りには既にエネルしかおらずその男は神だった。
神は酷く優しく憎むべき箇所など見受けられない―――――
その神を守る為にと訓練を受け
最終的によその国へ講習という名の訓練に向かった。
どこにいてもエネルの意思は届いていそうで
は淋しさに悩む事もなく今に至った、
神は悠然とを向かえた。


「これ!」
「あーあースイマセンーー」
「真面目に取り組まぬか」
「はーい」
「間延びした返事は要らぬ!!」


毎日の訓練は飽きこそ齎せど満足感は得られない。
今この小娘に一番必要なのは礼儀作法他ならん、
これはシュラも言っていた事だ。
少々がさつなは今日も詰まらなさそうに草を千切った。


「これ!!」
「あーあー」
「まぁそう口うるさく言うな」
「!」


突如姿をあらわした神は上機嫌でその場を見つめる。
は嬉しそうにエネルを見上げ神官達は頭を下げる。
使い勝手のいい美しい駒が手に入った―――――
実力の点では神官達にも勝る。


、」
「はい」
「少々付き合え、」
「喜んで」


差し出された手を取ったはエネルと共に姿を消す。
一難去って又一難―――――
神官達の悩みは尽きない。









珍しく地に足をつけたエネルはの手を取り歩く。
随分昔に同じような光景を目の当たりにした。
エネルは歩いている。
仮にエネルの胸中にどんな渦が牙を剥いていようとも
にそれは見えはしない、
長年において蓄積された信頼は全てを上回る。


、」


私の為に生きるか。
ふと見上げたエネルの顔は逆行の為見えはしない。
は眩しそうに目を細めながら頷く。
貴方の為に、貴方だけの為に。
盲目の忠誠心は不可能を可能にする。
子を殺す、無抵抗の人間を全てを。
エネルの指示を忠実に守る衛兵―――――
それがだ。
時期を見計らい恐らくエネルはを夜伽の相手とする。
そんな時でもは恐らく抵抗一つ見せないだろう。
全ては我が神の為、エネルの為に。









「それは、喜ばしいじゃあないか」


歯止めの利かないの行動を随時報告する神官達にエネルは言った。
何が問題だろうかと。
はエネルの膝で眠り又目を醒ます。

これも再UP。
エネルに対する愛情が我ながら気持ち悪い