お前が死んだ日

シャンクスに手酷い傷を与えたまま
安っぽいモーテルを飛び出したは辺りを見回す。
殺す事は出来なかったが、それに近い状態には追いやれたはずだ。
シャンクスは少なからずともの事を見縊っていたし
だから今回傷をつける事が出来たのだろうと。
騎乗位の体勢で胸を指した、
シャンクスは少しだけ驚いた顔をしていた。


「・・・・・・クソっ、」


理由の分からない涙ばかりが溢れ出し視界を遮る。
悲しいわけではない恐ろしいわけではない―――――
何故涙が出るのだろうか。
少しの悲鳴も上げずシャンクスは只無言で笑った。
は身体を離した。
ナイフを抜こうとすればそんな状態にも拘らず
まるで力の弱まらないシャンクスの手に阻まれた、
抜く事は出来ないまま
案外ゆっくりと服を着部屋を抜ける。
一階入り口辺りにはシャンクスの仲間―――――
ベンを筆頭にした彼らが情事の終わりを待っている。
ベンは最初からずっとの事を信用しておらず、
彼の賛美眼は正しかったといえる。


「クソ、」


別に名を上げたかったわけではない、
只愛して欲しかっただけだ。
シャンクスはの望む愛を与える事が出来ず
あんな事態に―――――
ねぇシャンクス、
あたしはあんたに全部投げ打ったじゃない、
なのにどうしてこうなっちゃったのかしらね―――――
その理由を探す為だけにこの物語は廻る。









気づけば多額の賞金がかけられており、普通に暮らす事等出来なくなっていた。
海賊でもないそれなのに命を奪ってまわる悪名高い女に―――――
男達はこぞってを抱くのだから大して問題にはならない。
シャンクスが死んだという噂も耳にしない昨今、
恐らく彼は生きているのだろう。
あの赤髪が幾分懐かしくもある。


「・・・・・止せ!!」


男が跪きはその背を撃った。
あれ以来ナイフは極力使わないようにしている。
感触がどうにも忘れきれず
挙句は殺す事も出来ないのではないか、
そんな余計な心配すら重なった。
一番最初に殺した男の名は何だったか、
足場には血だまりが広がり、
窓の下では盛大なカーニバルが。
こんな喧騒の中銃声など掻き消されているに違いない。
いそいそと支度を整え次のターゲットを。


「・・・・・やぁ、」
「・・・・・・・」
「名前も忘れたか、
「エネル・・・・・」
「ご苦労だったな、」


そうだ。
一番最初に殺したのはエネルという名の男だった。
空の上の嫌に光の溜まる場所―――――
確かそこが現場だったはずだ。
エネルは宙に浮きを見つめる。


「あんた、確か―」


殺したはずなんだけど。
怪訝そうな表情でがそう問えばエネルは豪快に笑う。
お前には分からない理由があったとしたら?
お前には到底理解の及ばない現実があるとしたら?
問いでを追い詰めるのは十八番なのだろう。
は視線を伏せる。


「それにしても―」


まったく節操のないものだ。
僅かに開いたドアからは血だまりが覗きほどなく生臭い香りが到来する。
まだこの男が自らを神と名乗る前の話だ、
準備段階中に男は一度死んだはずなのに。


「何してるのよ・・・・」
「お前を迎えに来た、」
「頼んでないわ・・・・・」
「私の国に来るがいい、」


あんたあれ本気だったの?
青年の野望は果てなくはそれを夢物語だと笑った。
そうして殺した、殺し損ねたのだろうか。
今はそんな事大して気にもならない。
逃げる気など毛頭なく、
そんなの腕を掴んだエネルは空へと向かう。
愛してくれるのだろうか。
そんな不安ばかりがを覆った。









「お頭、怪我の具合は―」
「ああ、もう大丈夫だ」


胸元に深い傷を負ったシャンクスは瀕死の状態で発見された。
少しだけ隙を見せてしまった事について今更述べる事などない。
無意識ながらもナイフを抜かせなかったのは失血死を防ぐ為。
驚いてもいた。


「あの女―――――」
「ベン、」
「消息が掴めましたぜ、」
「そりゃ、いいな」


自分を取り込むほどの病み方をしている人間に初めて出会った。
身も心も全てが。
このままで終わらせるつもりなどなくお返しはするつもりだ。
それはもう十二分に。
只興味が失せたかと言われれば迷うしかない、
この感情が怒りなのか憤りなのか
それよりももっと生臭いものなのか―――――
欲しているとは思うのだから手に負えない。


「探すか、」
「始末するんですか、」
「さぁな、」
「・・・・あんたの、」


悪い癖だ。
呆れたようなベンはそれ以上何も言わず船を出す準備を始める。
執着には違いないだろう。
自分の命を脅かした相手ですら興味の対象になる、
浮世離れしたあの女の事は最初から気に入らなかった。
あの事件が起きた時にもベンとはいわず
他の船員全てが案の定だと、しかし。


「しかしよぉ、」


なぁベンあいつほどの女はいねぇぜ。
傷跡を撫でたシャンクスはそう言い笑う。
だから皆一様に溜息を吐いた。









エネルのいう自分の国、そこに降り立った
僅かばかり息を飲みエネルを見つめた。
ここに来るまではすっかり忘れていた事情、
あたしはあんたが嫌いなのよエネル―――――
漠然とそれを思う。
そもそもあの日この男に出会ってからの人生は一変したのだ。
馴染みのない人間、馴染みのない風景―――――
地上に慣れきった身体は即座に拒否反応を示した。
この男はと共に秘密を共有しようとした。
はそれに押し潰された。


「・・・・・・・帰るわ、」
「どこへ、」
「下、一目見たんだからもういいでしょ、」
「さてな、」


ここでは私に意見する事等適わないのだ。
決断は全て我に―――――
裏切りが色濃く鮮やかに蘇る。
表情一つ変えないままにエネルは叫んだ。
の周囲を見慣れない若者達が囲む。


「この女を幽閉しろ、」
「何・・・・!!」
「二度と外へは出すな」


私を裏切った罰がこれだ。
肢体を囚われたは状況の飲み込めないままエネルを見上げ、
その姿があまりにも後光染みていたものだから目を閉じた。
あたしに罰を与えると、あんたが罰を―――――
憎しみばかりが沸き起こる。
この男が乗っ取りを考える間延々と側にいたに対し、
故に力尽きたこの女にエネルは罰を与えた。


「・・・・・・・エネル、」
「何だ?」
「あんたがその気なら、」


あたしもそうするわ。
の目から零れる涙に託された決意は何だろう。
そもそもその涙の理由は何か。
大した抵抗も見せないはゆっくりと連行され、
陽だまりの中佇んだエネルは満足そうに笑う―――――
最初望んでいた結果とは違っていても。
どうせこれも気まぐれな神のいつもの気紛れに違いない。
そう思われている内が華だ。

再UP。 まさかのシャンクス+エネルという…
今日、発掘して吃驚した