お前が死んだ日A

三者三様しかし同じ胸中が渦巻く。
お前を愛している、お前が愛してるさ―――――
海原をひた走る男は、
廃墟に似た遺跡に幽閉された女は、
一つの国を支配する男は。
まったく身勝手な愛情が一つに固まる。
この愛は終わりはしない。









古い遺跡に似た建物に幽閉された
面積だけは異様にあるそこをウロウロと徘徊していた。
古代の遺跡になど微塵も興味はなく、
むしろ薄気味の悪い場所だと感じた。
一つの国を乗っ取るというあの男の発言に幾分怯えたりもした。
エネルは何を考えているのだろう。


「気に入らない、」


上から見下ろされている立場がまず気に入らない。
あの頃は二人同等の立場だったはずだ。
いつからエネルは自分を見下すようになった、
まったく気に入らない。


「気に入らないわ、」


あたしは何一つ変わっちゃいないっていうのに
あんたは変わったのねまるで別人だわ。
涙が溢れる。
この形が愛ならば永久に愛せるとすら思った、
この感情は決して消えはしないだろう。


「エネル・・・・・・・!!!」


病んだ心が交錯する。
裏切られた感がより強いのは果たして誰なのだろうか。









あれから半年ほどの月日が流れたとある日、事態は公転する、
幽閉してから一度として顔を見なかったエネルと
生存すら危ぶまれていた
その日の姿が消えたという一報がエネルに届く。
ようやく動き出したかとも思い
重い腰を上げたエネルはを捜すと。


「詳細を、」
「はい、」


の食事は日に一度だけ。
あの広い遺跡内今はどこにいるのかも分からない状況下、
鉄格子で閉じられている唯一の入り口に放置される。
その食事にまったく手をつけられなくなったのが幽閉され一週間後。
それ以来実質の生息は分からなくなっていた。
エネルはその事に感心がないのかどうなのか―――――
兎も角の名を口にすれば即座に死に至る為
この神から話を持ち出さない限りはの名は出て来ず。


「・・・・・・・・抜けたか、」
「はっ?」
「終焉を迎えるか、さてな」


遠くを見つめるエネルは少しだけ息を吐き出し立ち上がる。
耳を澄ませればこの国の中の足音が聞こえた気がし、
容易く命すら奪ってやろうとも思ったが止めた。
愉しんで終わらせなければ、全てがゲームだ。









細長い路地を延々と走り続けていた。
このまま行けばどこに辿り着くのだろう。
エネルはここで自分を飼い殺す
(しかも本当の意味で、だ)つもりだろう、
そんな事は絶対に許さない。


一度殺したはずなのにあの男は生きていた。
あの男を殺すまで深い位置で愛情が燻り続ける。
息すら出来ない、酷く呼吸が苦しい。
目の前に小さな明かりが見え始めは僅かに視線を細めた。
何かが揺らいでいる。


「・・・・・」


この通路は果てなく続く。
あたしは確かにあんたにはお似合いだったわよエネル―――――
ゴールは目前に、そこにはあの男が存在する。
乱れた髪を気持ち整えたは足を止め前方を見つめた。
男がいる。


、」
「どいて、」
「どこへ、」
「邪魔なのよあんた!!!」


エネルを突き飛ばそうと両腕を突き出したは泣いている。
精神的には随分追い詰めたはずだ、きっとじきに終わる。
だからこの道はどこまでも続き終わりはないのだと。


「ご苦労、」
「あたしは、」
「まるで変わらぬ、お前は」
「あんたは、」


崩れ落ちるを抱きとめたエネルはそう言い、の髪を撫でる。
あたしは変わってないわあんたが勝手に変わっちゃっただけじゃない。
愛よりも情に寄っているとエネルは思い目の前に続く深い闇を見つめる。
最初に裏切ったのはこの女だ、一人の虚しさを知るがいい―――――
神はそんな事を感じはしないのだろうとも思った。


「我は神なり、」


お前は人を捨てる事が出来るか。
あたしはあんたに似合いのはずよ、出来ないわけがない。
なのに息は苦しいままだった。
全てを忘れて全てを捨てる。
その日を境には女神として君臨する事となる。









そうしてとある船がその国へと立ち寄り事態は一変する。
女神は難を逃れ地上へと舞い戻り天を見つめる毎日を。
神は笑った、お前には無理だと。
好きなところへ逃げるがいい。
そうとも言った。
これで終わりなの?
そう言えば酷く気だるそうに神は首を傾げ、結局答えはくれず仕舞いだった。


「・・・・ぁ、」


地上へ降りてからどれだけの時が経過したのか、
はずっとエネルの迎えを待っていたもののそれは来ず。
何となく彼自身が本当に終わってしまったのだろうと思い、
嫌な虚しさが胸中を埋めた。


「赤、」


赤い髪がやけに目に入りは蹲る。
随分探したぜ
お返しのように刺された胸元、世界がグルリと廻る。


「悪ぃな、」


こういうやり方しか考えつかなくてよ。
国にとりつかれたあの神は、
神である所以から逃れきれず変わった。
あんたの周りの奴等のおかげであんたは。


エネルの心は国にあった。
彼の全盛期が延々と続くわけはないと踏んでいた。
何れ落ちぶれてしまうだろうと、あの古代の国と同じく。
シャンクスはの前に座り込み顔を上げさせる。
「見つかったか?」
「・・・・・・・・」
「お前が欲しい愛ってやつはよ、」
「・・・・・・・・」


出来る事ならばエネルの最期には彼の側にいたかっただけだ。
最初逃げ出したものだから、最期もこんな距離を保つだろうとは思っていた。


「ぁ・・・・・・・・」
「なぁ、」


引き寄せられ勢いよく抜かれた刃先、
は目を閉じエネルを想う。
これでようやく本当の天国よエネル―――――
あんたはそこで待っててくれるんでしょう?
力尽きたに口付けたシャンクスは
髪といわず全身が赤く染まり。
遠巻きに自分とを見ているであろうベン達を背に―――――


少しだけ泣いた。

再UP。 死んでんじゃねえかという。
しかもエネルは月に…行ってるし…
それ以前に書いてたから…