マザアゲイム

目を見たまま黙って腹の内を探れば
あの男は見透かしたようにを見る。
シンプルな中身は血と肉と骨で構成されており、
それらにはあまり意味がないらしい。


「何て目で見てんだ、
「気にしないで」
「いいや、気になるなそりゃあ」


シャンクスが距離を縮めようとすれば
は過剰なまでの反応を示す。
そこまで露骨に嫌がらなくてもいいじゃねぇか―――――
肘にあたり宙を舞ったバカラの水差しが粉々に砕け散る、
それとほぼ同時なのだろう。


「あんたが―」
「何?」
「あんたが欲しいわシャンクス」


まるで殺気などは感じず、只体感温度がやけに低くなった。
いやぁ俺はよ、お前になら殺されても文句はねぇんだが、
バカラの欠片はの手の平と同じくシャンクスの肉すら刻む。
七色に光らなくもないそれを手にした
シャンクスの胸元に突き刺した。
あんたはいつまで待ってもあたしにくれはしない。
俺が消えりゃあお前は泣くじゃねぇか。
痛みはないのだろうか、
もしないとすればそれはこの男の神経が壊れている証拠だ。


「何が欲しいんだ?」
「あんた、あんたよシャンクス」
「くれてやってもいいぜ、」


けどそりゃあ、お前が俺にくれるんなら、だ。
シャンクスのものになるという事は
自身の死すら匂わす。
どこに行くにも何するにもお前は俺と一緒で、
そうなりゃあ自ずとお前の嫌ぇな束縛ってヤツも伴っちまう。
の事を誰よりも理解し誰よりも突き放す、
きっとシャンクスはそういう男だ。


「あたしの力が欲しいの?」
「そんなもんにゃこれっぽっちも興味がねぇ」
「あたしにはそんな価値、ないわよ」
「そりゃお前が知らねぇだけだ」


もうじき日が暮れる。
シャンクスはの目を見たままどうしたものかと考え
もそれと同じだ。
まるで夢のような関係を築き上げたのが丁度一年前。
脆いそれはじきに姿を消す。


「お前は、どうしてぇ?」
「何を、」
「身体だけってのもそう悪かねぇ」


むしろそっちの方が楽でいいかも知れねぇぜ。
半ば腐りかけた床に寝転んだシャンクスは
ラム酒を片手にを捜す。
ぼやけかけた室内には
倦怠感にも似た澱んだ空気が充満し
このままでは窒息してしまいそうだ。


「個人の尊重、」
「エゴイズム」
「権利の自由、」
「フェミニスト気取り?」


シャンクスの腹部に頭を乗せたは嘲るように笑った後
シャンクスの手中からラム酒を奪い取る。
あんたといる時って気が滅入りそうになるわ、絶対身体にもよくない。
は度の強い酒を無理矢理流し込み鬱積したものを消す。
まるでおままごとのような時間帯はもうじき終わり、
どこかで日没を知らせるサイレンが鳴り響いた。

再UP。 普通に恋愛しようぜ