大人になった僕たちへ

「でっかくなったなぁ、
「いつと比べてんのよシャンクス」


逆行で顔がよく見えなかった。
シャンクスの髪は鮮やかに映え懐かしそうにを見つめている。
黒々と弛ゆたう豊かな髪が潮風に揺れている、
は日に焼けた腕を伸ばし錨を取った。
くわえタバコのは僅かに草臥れた感じで
なのに女らしさが、いつからそれは表面に出始めたのか。


「・・・来る気はねぇか?」
「更々ないわ」
「可愛いくねぇな、」
「今更」


左腕全体に入れられた刺青が途端目に入った。
細かな文字が幾つも並び錨のマークが間に。
一人で小さな船を動かす
少しだけ名の知れた女海賊だ、一匹の。









各方面から旅立ってきた海賊達が途中、
休憩及び食料調達に重宝している街がここだ。
ウェイギイタウン。
弱者も強者も海賊ならば必ずここに立ち寄る。
ここの積荷を乗せるのがある種ステイタスにもなっているくらいだ。
波止場を抜ければすぐに市場が広がり市場を抜ければ宿街が。
宿街の先には盛り場が広がる。
治安はそういいわけもなくよその街よりは圧倒的に悪い。
何よりここは海軍の手の届かない島だ。
この島を仕切るのは一人の女とその配下達、素性は明かされていない。


「案内しろよ、」
「赤髪のシャンクス様御一行って?ハ、」
「一番いい部屋用意してよ、」


一緒に寝ようじゃねぇか
下種な会話を交わしながらシャンクスはの少し後ろを歩く。
がこの島をしきり始めた。
そんな噂を耳にしたのは一年ほど前の事だ。
率直な感想は案の定、それだ。
はこの島で生まれこの島で育った。
シャンクスが最初にこの島を訪れた時安宿で出会ったのが最初だ。
第一印象は虐げられている、それに尽きた。
歳の頃は十もなかったと記憶している。


「何しに来たの」
「そりゃあお前に会いに、」
「嬉しくないわね」


人込みの中を迷う事無く目移りする事なくは歩く。
先日降った雨に濡れたレンガの通路
の姿を見失う事はないだろう。
あの頃無力な少女だった彼女は立派に成人し大きくなった。
力を持ったのだろうか、欲しかったものは手に入ったのだろうか。
藍色のつなぎを腰の辺りで結んだ
黒いタンクトップを見につけ颯爽と街を歩く。
宿街に出た、が立ち止まった。


「好きなとこ選べばいいわ」
「お前は、」
「料金はあたし持ち、それでいいでしょ」


ネオンがここぞとばかりに自己主張を続ける路地で
シャンクスとは別れた。









子供は使えないって言われてね、そうしてあたしはさ。
あたしは痛いのは好きじゃないし
お酒くさいのも好きじゃないの本当は何も好きじゃないのよ。
パパもママも死んじゃったしでもここの叔父さん達はいい人よ。
顔に痣をつくった少女はそう言い笑った。
創りの細かな顔に痣は異様なほど浮いて見え
シャンクスは少女の髪を撫でる。
少女は別に逃げ出したいわけではないらしい、
それは子供の建前かも知れない。
その後幾度かと顔を合わせる機会があった。
年々は成長していた。
十代中頃を越えた辺りから顔を合わせる事はなくなった。









この街を見渡す事の出来る丘の上にの住む家があった。
住む家、とは又違いこの島を纏める人間が住むべき城だ。
最初はこの島を出ようと思っていたが何故この島に残ったのか。


、」
「何」
「あんたのお客さんが大暴れだ」
「・・・どの店?」
「島内で一番高い宿、ベルモッチ」


は笑い放っておけと吐き棄てた。
あいつらは大手だ手出しは無用、何故この島に残ったのか。
すぐ手の出る叔父はが十三の時に死んだ。
その頃になればも一人で何とか生きていけるようになり
周囲、皆が知り合いだというこの島の事だ。
面倒を見る人間は腐るほどいた。
むしろ叔父が死んでよかったのかも知れない。
は最初の自由を得た。


「それと―」
「まだ何かあるの?」
「お客人です」


鏡の向こうからシャンクスが顔を出した。









の部屋は簡素なものだった。
物がないからかも知れない。
部屋の真ん中には真っ赤なシーツの目立つベッドが一つ。
そうしての立つ向こう側に大きな姿見が一つだ。
目に付くものといえばそれだけ、シャンクスは室内に入り込む。


「・・・何の用です」
「いや、な」
「用、ないんなら帰ってくれませんか」


あたしも色々忙しいんですよ。
素っ気ないの態度は今更だ。
シャンクスもそう反応する事なくマイペースに話を続ける。
ずっと聞きたかった事があっただけだ。


「聞きてぇ事がある」
「何?」
「独りにゃなれたか」
「え?」
「出口は見つかったのか?」


いつまで―そうだ昔からずっと思っていた。
いつまでこの状態が続くのだろう
どうしてここにいるのだろう何故。
助けを求めなかったのは意味がなかったからだ。
助けてくれる人間が思い当たらなかっただけだ。


「さあ」


あの頃とは違いますし、あたしも成長しましたし。
はそう答え海に出ている間に溜まりきった書類を手に取る。
気紛れに海にで気紛れに海賊を続け気紛れに島に戻る。
シャンクスが赤いシーツを撫でている。


「部屋代は出しますけど、」


他の金はゴメンだ、明日になったら出て行って下さいよこっちは散財だ。
大人になったはそう言い弱く笑いシャンクスに向かい手を振った。

再UP。
大人になるというのは淋しいものですか