ねぇ 愚かな僕は何が出来たのだろうね

彼女を見ているだけで
もう全てが咎められないだろうとさえ思えた。
盲目に信じきれた。
何がそうさせたのだろうとは今となっても理解りはしない。
きっと彼女を愛していただとかそんな生臭い感情ではないと思う。
只焦がれていた、只崇拝していた。
お世辞にも利口な子供ではなかった。
己の欲望と欲求をそのまま表に出して
それを願望のまま受け入れてもらえるとさえ思っていた。
は容易く自分の事を愛してくれるだろう、そう思えた。









は海軍の駐在している港町でも
名の知れたバーをやっている女だった。
バーといっても昼の十二時には開店し
ランチを始めるとても評判の店だ。
人気メニューは店長お勧めランチ、日替わりだ。
港町だけあり治安は余り宜しくない。
海軍が駐在していてもそれは変わらず
むしろ悪化したようにさえ思えた。
よそ者の入れ替わりが多い分仕方がないと思える。


「おい!」
「何よあんたら又来たの?」
「メシ喰わせろって」
「まったく・・・」


バイトくらい探しなよ毎日遊び回ってないで。
レタスを剥いていた
カウンター奥のキッチンから眼差しだけを向ける。
昼間の喧騒を越えた三時過ぎ、客はいない。
客がいないからこそこの時間帯を狙って
スモーカーと友達はただ飯を喰らいに来たというわけだ。


「なぁ、」
「コラそこの馬鹿!酒飲むんじゃない!!」
「俺と付き合おうぜ、」
「そっちのひょろ長いのもグラスに触るんじゃないよ!!」


毎回こうだ。
スモーカーのに対する気持ちを知っている友人達は
邪魔をする事もなく協力をする事もなく
に迷惑をかけるだけ。
スモーカーはに会う度口説きにかかり
はそんなスモーカーをまるで相手にせず。
その関係が心地よかったのかも知れないし楽しくはあった。


一人で店を切り盛りしている
丁度スモーカーより三つくらい年上であり
若い彼女が何故店を経営出来ていたのかは分からない。彼女もよそ者だ。
只バックに大きな存在がついているだろうとは皆思っていた。
だからこんな店にでも揉め事は起きないし羽振りも悪くない。


「・・・おいスモーカー、」
「ぁ?んだよ」
「ちょ、」


曰くひょろ長いの。
それが勝手にキッチンに入り込み
(あいつは料理が好きらしくもよく手伝わせている)
もう片方の馬鹿―――――
何かと騒がしい方がスモーカーに耳打ちする。


「俺この前さ」


スモーカーはを見る。
ここからは首から下、腰から上しか見えない。
本当のの姿だなんてどこからも見えない。









は海軍のお偉方の中その一人と付き合っていた。
その事実を知ったのはそれから半年後の事であり
スモーカーだけが知らなかっただけらしい。
別に腹もたたない。
勝手な言い分かも知れないが
が楽しそうだとは思えなかっただけだ。
顔さえ見ていれば分かると。どうだろう。


「あなたは、」
「そんな顔、するんじゃねェよ
「私を離さないのね」


店の裏、人通りのない場所だ。
は胸の前で腕を組み聞いた事のない細い声で話をしている。
の前にいる男は背中しか見えない。
たまたま酔い覚ましの為
外に出ていたスモーカーは偶然に居合わせただけだ。
男はを抱き締めずに葉巻の匂いだけを残しながら立ち去った。
スモーカーの吸うタバコの匂いなど風に消された。
は泣かず只参ってしまったように額に手をあて
大きな溜息を吐き出した。









なぁ。愚かな俺は何が出来たんだろうな。
今は因果なモンだ、海軍なんてやってるぜ。

再UP。
若かりし頃のスモーカーとかよく書いてたようで。
この主人公の恋人…
黄猿!?赤犬…?