マリオネットの血

一番奥の部屋に閉まってあるあの女は
絶対に口を割らないだろうし事実そんな事は百も承知だ。
は賞金首、名を上げる海賊達の中絶対に混じっている不穏分子。
有名海賊の中にあの女の姿は絶対にあるし、
機密がリークするのも総じてあの女の仕業だ。
これまでに幾度となく作戦を失敗に追いやった、同胞達が幾人と死んだ。
故には海軍内でも一層憎まれており
そんな罪人がどんな運命を辿るのかは分かり易過ぎてつまらないとさえ。
笑い声が木霊する、スモーカーは廊下を歩く。
乱れた衣服を直しながら歩いてくる兵士が一礼をした。









窓のないその部屋にはいる。
入り口には外側から頑丈な鍵が数個設置されており
換気は最悪、衛生状態もそうよくはないだろう。
葉巻の香りが瞬間に変わった感じがし、
スモーカーは不機嫌そうに視線を交えた。


鍵を開ける事もなく気化した身体はドアをすり抜け室内へと侵入した。
設置された簡易ベッドにはあからさまな情事の痕を
色濃く残したままのがうつ伏せになり眠っている。
よく見る光景だとスモーカーは思う。
太腿からシーツにかけてベットリと染み付いた
所有者の分からない精液や陰毛を濡らす自身の体液。
処理をする力も残ってはいないらしい。


「おい、」


声をかけてみる。
は反応を示さず小さな呼吸音だけが列を乱さず吐き出されていた。
足首と手首に残る痣、汗臭い室内。
まず最初は強かに殴られ蹴られ助けを乞わせようとしたが
はそれをしなかった、男達の勢いは増した。
後ろ手に縛られたは口元から血を垂れ流しながら肩で息を、
哀れだと感じたがそれだけだ。
色々と不明な点の多いに関する資料は皆無であり
少しでも情報を聞き出したい海軍側は拷問に似た行為を行った。
は口を割らなかったが一度だけ死のうとした。


「・・・・


もう一度だけ声をかけた。今度は名を呼んだ。
ピクリとの指先が動き室内に気配が広がる。
まるで便所みたいだと笑う声が聞こえた。
何れこうなるだろうとは思っていた。
そもそも海軍に捕まった原因は何だった。
確かあの男に売られた
―――――絶対に許しはしない。


「珍しい・・・大佐じゃない」


あんたもあたしと犯りに来たの。
ゆっくりと状態を上げながらが呟く。
傷の絶えない身体は白さの中に激しい赤のコントラストが。
掠り傷と引っかき傷が顔を襲う。
捕らえた当初よりも明らかにやつれた身体が印象に残った。
一種の玩具だ、ふとそう思う。


「話を聞きに来た、」
「はっ、何の」
「お前何で捕まった」


ニアミスじゃねェのか。
ずっと昔にこの女を捕らえ損ねた事がある。
それがずっと気にかかっていた。
易々と捕まる女ではないはずなのだ
それなのにどうしてわざわざ目の前に現れた
―捕まえてくれと言わんばかりに。
スモーカー達一群の前に突如として姿を見せた
一瞬だが驚いていた、数秒で無表情に変わった。
そう抵抗する事もなく捕まった
嫌に憔悴しきっておりその様が不自然極まりなかった。


「今更何?あんた何が聞きたいの?」


それよりシャワー使わせてくれない。
素っ裸のは片膝を曲げ
精液と体液の混じった液体を指先で絡め取る。
肉の断片が覗いた、スモーカーは視線を逸らした。


「・・・何逸らしてんのよ」


嘲笑交じりにはそう言うがスモーカーは無視した。








現場に向かう事が多いスモーカーはを捕らえた直後
簡単な取調べをしただけでその後の事には
まるでノータッチだった、些か驚きはした。
それと同時に妙に納得も出来今日ここに向かったまでだ。
この女を抱く気はない。


「来い」


シャワーなら使わせてやる。
スモーカーはそう言いにジャケットを手渡す。
はそれを受け取り奥歯を噛み締めた。
これは、余りにも悔し過ぎる。
まだ犯された方がマシだ、哀れな女だと思われるよりは。


「あたしは―――――」


いつまでもここにいる気はないわよ。
立ち上がったは俯いたままそう言いジャケットを羽織る。
液状のものが内腿を伝い冷えたコンクリートの上に垂れた。


「承知だぜ、そんな事は」
「あたしを犯った奴等も絶対に許さない、殺すわ」
「好きにすりゃいい、どの道違法行為だ」


黙ったを背後に感じながら
スモーカーが葉巻を取り替える。
は泣いているのかも知れないし
自分の言葉を待っているのかも知れない。
しかしどちらにしてもこれ以上続ける言葉を探す事は出来ず
スモーカーはドアを開けた。
この女の取調べが終わるまで書類によれば後三週間―――――
殺意ばかりが増加するのだろうが誰一人気づかないに違いない。
そうして自分がに会うのもこれが最後だ。
クロコダイルに騙されたこの女は海軍に手渡された。
この様子ではどうやら自身
その事に気づいてはいるようだ、だからもう会わない。
何がしたかったのかと問われればこれといった答を返す事は出来ない。
それでもこのと面と向かい話をする機会は今しかないと思った。
は必ずここを抜け出す、正義等どこにもありはしない。

再UP。
クソほど暗い話の前編です。
何だろう…インペルダウンに連衡される前、
取調べとか受けてるって事で許してください。
辻褄を合わせる事等、出来はしない…!