それはまるで幻の如く

朝焼けまでまだ小一時間ほど時間のある今。空は暗く黒い。
まったく眠れないのは特に問題ではないとして、
このにとって問題なのは一体何なのかという話になる。
カーテンは閉めない、面倒になるから。窓は開けない、面倒になるから。
お月様が笑ったような気がした。




「・・・あのさぁ」
「何です?」
「これってこーゆー使い方しないんじゃないの」


普通は、毎日この時間帯にかかってくる携帯は、
本来携帯としての使い方をするものではないのだからおかしな話だ。
頭は嫌に覚めているが身体は相当くたびれているようで、
目を閉じたは携帯に向かい力ない発声を。


「またまたぁ〜」
「いや、いやいやおかしいし」
「そもそも携帯ってのは電話をするものじゃないスか?」
「ええー?何―?正論ー?ありえねー」
「女の子がそんな言葉遣いはしちゃいけませんよ」


こんな時間帯に電話をかけてくるような男(しかも毎日)
にそんな事は言われたくないが下手に口出しはしないでおこうと、長引く。
いやー今日もかけちゃいましたねェ。
悪びれなくそう言う男の名は裏原喜助。
そんな言い方したってあんた可愛くもなんともないわよ。
が又言葉を飲み込んだ。


「っていうかさ、本当何なの」
「え?」
「あたし軽く不眠症なんだけどマジで」
「本当っスか!」


そりゃ大変だ。
受話器越しの喜助の声が
気持ち浮かれたように聞こえたのはきっと気のせいだ。


「だから、」
「不眠に効くいい薬があるんですよ、実は」
「・・・・」
「今からお届けしましょうか、」


夜道の一人歩きは危険だ。
喜助はそう言いは携帯を今にも投げ出しそうに―――――ー




「お届けにあがりましたー!」 閉めたはずの窓から入り込んできたのは
やはりあの男であり声は室内と受話器、二つ同時に聞こえる。
唖然としつつも疲れきった身体が脳神経を冒しつつある
諦めにも似た感情を抱きそのまま喜助を見上げた。

再UP。
喜助が変態のようだA…
2004/8/25