過去を振り返るという行為は意味がない。
どう足掻いても戻れないからだ。
「ん、」
「あれ・・・不味かったか?」
「いいよ・・・」
だから恋次が差し込んだ指、
それが壁を些か強く引っ掻いたとしても問題はない。
知らず知らずとは何と浅はかな、何と欺瞞な。
敢えて比較しているだけだ。
「ん、ん・・・」
恋次が首筋に口付けている。
はそんな恋次の首に腕を回し
ぼんやりと空を見つめていた。
表立って関係を宣言しているわけではないし、
どちらから何を言ったわけでもない。
要は場の雰囲気というやつだ。
いいのかよ、ぶっきらぼうに恋次はそう言い、
は頷くでもなしに今に至る。
特に誰でもよかったというわけではないのだから、そう悪くはないだろう。
だからといって恋次がよかったわけでもなかった、それだけだ。
どうやら関係を持った以上、恋次はそれなりに愛してくれているのだと、
それなのに
はそれなりの愛でさえ渡しきれずにいる。
受け入れているのだから、それに愛が付属されているとでも勘違いしてくれていれば最良。
身体と心が食い違うのは何も男だけではない。
只
にしても無闇に恋次を傷付けたくはなく、
明らかに自分の我侭、己の非が目立つものだから、
これから先幾らかの歳月が経過したところで何かを告げる気はない。
時折恋次とすれ違う。何とも言えない視線を感じる。
話しかけそうでそれでいて躊躇するような、
上げかけた手は下げられ
言葉を飲み込むような恋次の姿を幾度目にした事だろう。
「ちょっと、」
「、」
「こっちに来、」
ふいに声をかけてきたのはギンであり
は訝しげな眼差しを。
あわせたかのように辺りに人はおらず否この男の事だ、狙いはしたのだろうが。
「何です、」
「酷い女やね、キミは」
「はい?」
「責めてへんよ、ボクは」
只お見事やと思うて、それだけなんよ。
一瞬眉間に皴が寄りそうになったところを
は押さえ、
何の事だかさっぱりですよ、言い逃れた。
まったく気が悪い。
無意識の内に鼓動が早くなっている、そんな自分にもがっかりだ。
「彼は変わりにはなれへん、」
「ちょっと―」
「ボクならなれます」
そう言ったらどうしますのん?
あんまりにも悔しくなり
はそこから逃げ出した。
彼はもう何処にもいない。
再UP
酷い話だ!
【彼】はきっと喜助…
2004/8/27