蜃気楼宜シイ轍等

何だよ最近は化石日和か?
は辺りを見回しながらそう呟く。
考古学者染みた老人やそれの部下らしい人間が、
薄汚れたジープに乗りの隣をすり抜けた。
時折姿を見せる必要以上に大きなダンプカーは
褪せた色合いが堪らなく渋く、は時折それを見つめる。
焼けたアスファルトの上を走り続けるのは最早趣味だ。


「さ〜てと、ちょい休憩でもしますかね、」


スカートの短い女達がローラースケートをはき店内を闊歩する。
腫れぼったい唇がトレードマークらしい店にバイクをつけ、は一度背伸びをした。
軽く戸を押せば耳に五月蝿いほどの音でベルが鳴り響く。
は一番奥の席に座りミートパイとジンジャエールを注文した。




「腹減ったな、
「ここらにゃ何もねぇぞエース」
「ああ・・・・・それで、続きは」




横に長いビニール製のソファーに
足を曲げたまま座り込んだはタバコに火をつける。
店内にはの他に一人だけ客がいた。
ウェイトレスは数人で固まり私語を楽しんでいるし、
流れてくるのは古いロカビリーだ、別に文句はない。


「ここからどうするか、まぁ道は続いてるんだろうけど・・・・・・・」


昨晩のようにバッファローの大群に追いかけられるのは極力避けたい。
本当に死ぬかと思ったな、は一人昨晩の出来事を反芻しながら頷いた。
それとほぼ同時にそばかすの可愛らしいウェイトレスが
注文の品を持って来、はそのままそれを口にし店を出る。
あの蛇の巣窟みてぇなトコも二度と行きたくねぇな。
己の注意力が足りなかったが為に引き起こした騒動を反芻しながら
バイクに跨れば店からもう一人の客―――――男が出て来る。
どうやら男もバイクで来ているらしい。やけに大きなバイクだ。
何故だか負けるわけにはいかねぇだろ、
そう思ってしまいは走り出した。




「何だいそのバッファローってのは・・・・」
「ああ、まぁその話は又いつかな」
「又って・・・ま、そうだな」




ミラー越しに背後を伺えば、
先ほどの男が悠々と走行している姿がうつる。
後ろを付けられるのも嫌だが抜かれるのも腹がたつ―――――
大体煽るようにぴったりくっついてんのは
テメェやっぱり喧嘩売ってんだろ?
がスピードを上げれば背後の男もスピードを上げ、
いたちごっこが続いた。


「・・・・・・野郎」


はハンドルを動かしS字に走行を。
そうしてそのまま今は使われていないのであろう
バス停の前で急ブレーキを踏み地面に足をつける。
乾いたアスファルトにタイヤ跡が色濃く残った。


「おい!テメェ一体何なんだ!?」


男は答えない。
ゴーグルをしたままくわえた葉巻から薄っすらと煙が立ち昇った。




「葉巻・・・・?」
「何だ?エース」
「いや、ま、続けてくれ」




大体煽ってんじゃねぇぞ、道路はみんなのものだろうが!!
我ながら何を口走っているのかよく分からなかったが、
は男に怒鳴り続ける。
ウルセェ女だな。
男はようやく口を開いたかと思うとそう呟く。
そうしてゴーグルを取った。


「何だよ」
「テメェこそ俺に何か用か?」
「うるせェな、ああくそっ・・・!」


こりゃどうにもなんねぇよ。
は少しだけ諦めバイクを走らせ始めた。
しかし男も走らせ始めた為に又同じ状態だ。


「ふざけんなよ!!」


はスピードを落とし男のすぐ真横にピタリとつく。
仕方ねぇ先に行けよ、今回だけは許してやるからよ。
横柄にそう言えば男は鼻で笑った。
が幅寄せをしようとすればスルリと抜け、
ミラー越しにニヤリと笑う。


「あ――腹たつ男だな!!!!」


そのままはガミガミと叫びながら男と共に道路を走行するが
途中細い曲がり道に面し、心外だと思いつつも曲がってしまった。
恐らくはそれが間違いだった。




「何もそれで怒鳴る事ねぇじゃねぇか、
「うるっせえなエース、お前にゃ分からねぇんだよ」
「はいはいはい・・・・で?」




「あ、あ〜〜〜あ・・・・・・・・・」


呆然と己の馬鹿さ加減に暫し唖然としたは、
日も暮れきった荒野で一人項垂れる。
細く飢えきった草木の隙間を埋め尽くすように蠢いているのは
独特の声を漏らすガラガラヘビであり、
はバイクを置いたまま岩の上に座りこんでいた。
朝方になれば少しは数も減るのだろうが
深夜は奴らの独壇場だ、は月夜を見上げる。


「大体何で又こういう事に・・・・二度目だぞ!?」


絶対あの男のせいだ、くそっ、今度会ったら―――――
胡坐をかいたままブツブツと不平不満を漏らすに、誰かが声をかける。


「お愉しみ中か?おい」
「ああ!?」
「助けてやろうか、」


闇夜に目を凝らせばどうやらあの男らしい人影がうつった。
ああっテメェ何偉そうに言ってやがる―――――
が勢いよく立ち上がる指差せばどうするんだ、と。
とっとと助けやがれ、は叫ぶ。


「まったく・・・・可愛げのねぇ女だ」


突然身体を覆った煙、は身体を止める。
そうしてその直後は蛇の平地を越え舗装された道路にいた。




「そいつ、名前は―――――」
「ああ!?やっぱ知ってんだろ」
「いや、どうだか・・・・」
「結構イイ奴だったんだよな、結局はよ」




男はに名前を聞いた。
未だ呆けているは、バイクを取ってくれたら名前を教えると。
やれやれ、そう言いつつバイクを取ってくれた男に名前を聞けばスモーカーだと。


だ・・・・・すまなかった、スモーカー」
「ああ?何がだ?」
「いや、昼間の事だよ・・・」


覚えてねぇな、そんな昔の事は。
スモーカーはそう言い視線を外す。
そうしてそのままとスモーカーは
大きく長く続く道をあまり喋る事なく走り続け、
少しだけ打ち解けたのは二度目の休憩の時だったらしい。




「そりゃいい話だな、
「あそこだろう?エース、お前の言ってた船ってのは」
「うん?」


そう言いは一つの海賊船を指差す。
麦わらを被った髑髏マークが目印の海賊船、エースが途中話していた海賊船だ。
何だい、お前知ってるのか?
エースがそう言えばあの船の奴も乗せた事があるんでね、は言い笑った。

再UP
スモーカーver
アメリカンな雰囲気も好きだった模様
2003/11/19