逃げる事に疲れたのならばもう此処にいる理由もない
ニゲルコトニツカレタノナラバモウココニイルリユウモナイ

「・・・・何やってんのよあんた」


追試の為に顔を出したは、
夕暮れ迫る教室内に一人佇む男を見て思わずそう漏らす。
こんな時間帯に追試を受けるのは、
が無期限の停学中なのが主な理由だ。
頭はそう悪くない、しかしながら素行はとても悪い。
教師達も頭を悩ませる存在。


「スゲー久しぶり」
「つーか久々学校の奴見た」
「あれお前太った?」
「痩せたよ!!」


死ねよ馬鹿。
とても口の悪い彼女の言葉は無作法に乱立されている。
振り回されたセカンドバックが机にぶつかり激しい音をたてた。
はそれを直そうともせず、足で椅子さえ押しのけながら末次のそばに向かう。
一応はサッカー部の名士、我侭末次くんの影は息を潜めたらしいが、
きっとは知らないだろうしそれ以前に関心もないだろう。


「つーか部活は」
「今日半ドンだったろ、土曜じゃねーか」
「あれ?」
「お前こそ何やってんだよ」


本当は気持ちの整理をしていただけだ。
だから最後になるであろうこんな日にでもここにいた。
もう逃げる事は出来ないだろう、
だからといって向き合う事も出来ないだろう。
どうしたい、どうすればいい。
今の自分ではキーパーとしても不充分すぎて涙も出てこない。


「あーあれ。あたし見たよあんたの試合」
「え」
「まぁあたしサッカーよくわかんないんだけどね」


高杉と試合をした後くらいからだんだん分かり始めた。
ここにはもういなくてもいいのかも知れない。
「つーかお前無期停だろ」
「そーよ!吃驚よ実際」
「まあ他の奴らは吃驚もしなかっただろーけどな」
「であんたは何やってんの」
「・・・・・」


ふと出会ったこれが只の偶然などではなく必然だったとしたら。


「あれ?あんた少し背ェ伸びた?」
「伸びてねーよ馬鹿」


陽はすっかり落ちてしまい、
はじきに職員室へと呼び出されるのだろう。
それに末次にも時間はない。
後ろ向きな生活には疲れてしまった。
俺がやりてェのはこんなんじゃねーんだよ、だから。
だから日本を飛び出した。




「有り得ねェ」
「いやー」
「つーか何でお前?」


俺の帰国後第一の対面(女子)が何でお前なんだよ。
数年会わなかった末次は背が伸び無愛想に磨きがかかっている。
は学生時代ほどの露骨な派手ささえなくし、
感じのいいお姉さんに風変わりしていた。
それにも末次は驚きを隠せない。


ちゃん!」
「お、愛子さん」
ちゃ〜ん!」
「・・・緑川(ばっさり)」


話を聞く分にはどうやら愛子伝いの知り合いらしいと、
その流れで自分の事を知り今ここ、空港の裏口にいる。




つーかマジで有り得ねェんだけどお前。
逃げて逃げて、嫌って程逃げてもまだ足りねーし、
けどちょっとは成長できたっていうかまあどうなんだか。
毎度あれだよな、お前とは微妙なタイミングでばっか顔会わせんのな。

再UP
末次の成長には驚かされたよね
2004/6/23