ゆるい星

遠征先について来たわけではない。
たまたま仕事(ごめんフリーのデザイナーです仕事下さい)
がてらの旅行で来ていた先が、槌矢の遠征先だっただけの話だ。
連絡もなしに旅立つのはの悪い癖であり、
普段なら滅多にかかって来ないであろう槌矢からの電話、
それすらも取れなかった(の持っている携帯はこの国で通じない)


、」
「何?」
「サッカーの試合があってるよ」
「え?」
「日本人だろう?あれは」


現地のデザイナーの指差した先にはフィールドがあり、
がそこに近づけば感じなれた視線が向けられる。
えっちょっと待ってよ―――――
公式なものではないらしいと、どこかで見たような顔が垣間見れた。


「何だぁ?取材は無理だぜ」
「え・・あの、嫌・・・(怖っ)」
「日本人だよね?何?何?」
「か、観光・・・」
「俺の連れっス」


突然口を挟んだのは槌矢であり、は目を見張る。
だってほら半年近く会えなかったじゃない、何か試合とか練習とか
そもそもあんたが先に消えちゃったわけだし―――――
言い訳を考えてしまうのは、槌矢の様子を伺えるからだ。


「テメエの連れェ!?」


だったら先に紹介するなり何なりしやがれ!!
槌矢の一言で猜疑は解かれたらしい。
伊武は苦口を叩きながら試合に戻り、
緑川は例の如く騎馬に引き摺り戻される。
その場に残されたのはと槌矢だけだ。


「ぐ、郡司・・・・」
「何やってんだよ
「いや、あんたこそ・・・」
「・・・・・・・」


微妙な関係を続けていた。自由過ぎたのはお互い様だ。
何となく不穏な気配を察した現地デザイナーは、
薄情ながらも先に戻ってしまい、
も何気にそれに続こうとするが
試合終わるまで待ってますよねぇ?
槌矢の一言で炎天下の下留まる羽目に。


「あ、暑い、いや熱い・・・・」


が熱射病にかかるまで後数分。




「・・・・・・・あ」


目覚めれば見慣れない天井が目に入り、
は飛び起きるが眩暈に再度叩きのめされた。
酷く具合が悪い。
そういえば外にいたはずなのに、暑いながらも妙に肌寒く
はかけられていたタオルケットを身体に巻きつける。


「目、覚めたっスか」
「あ」
「いきなりぶっ倒れんなよ
「郡司・・・」


どうやら自分はあの炎天下の下熱射病にかかり倒れてしまった。
調度試合の終わった直後の事らしい。
伊武はそれで尚更不機嫌になるし(だから女子供はいけねェ等と)
流石に槌矢もこれには参った。
日頃運動の類にまるで接点のないは容易く倒れる。


「で、」
「え?」
「理由でも話してもらいましょうか」
「何?」
「俺何回も電話したんスけどね〜〜〜」


料金滞納かと思ったぜ、あんまり繋がんねーから。
槌矢の言葉に再度不安が再熱する。
この関係の意味を、理由を。
いい加減曖昧過ぎる関係からは、足を洗わなければならないのに。


「・・・・・・・あのさ、」
「何スか」
「前から聞きたかったんだけど・・・・」


あたしとあんたはどういう関係になるの?
呆気に取られたような槌矢が思わず目を開く。
どんな関係って分かりもしねーで続けてたのかよ。
は只頷いた。




「おっちゃんおっちゃん!!」
「何かタクローその呼び方はやめんか!!」
「猫目の兄ちゃんはどこね」
「猫目・・・・そりゃ槌矢ん事か?」
「そうったい」
「あー今はよしな、」


お取り込み中だろうよ。
ロビーに集合している(しかし特に意味はない)
連中は上の階の話をしている。
現地の新聞を広げている伊武はタクローをそう嗜め、
緑川に水でも買って来いと告げる。
何で僕がー!?
緑川がそう言えば、
いいから黙って買って来ねーか馬鹿野郎!!
一喝が飛んだ。


「お取り込み中って何ね」
「ガキは知らなくていいんだよ馬鹿、」
「せやな、」
「何かその言い方は!!」


寺元お前も分かんねーのかよ。
皆一瞬そう思うが口には出さない(うるさいから)
どうやら高杉も分かってはいない様子だが、
それも口にしない(今更だからか)
何だかんだと文句を言いながらも、
倒れたを気遣っているらしい伊武は
やはり不機嫌そうに新聞を眺めるし、
その他メンバーもそれぞれ好き勝手な行動を。


「けどあれやね、」
「え?」
「槌矢君も隅に置けない感じやね」


そう言い笑う尼崎に反応できない高杉を見た騎馬が
少しだけ微妙な表情を浮かべていた。




思わず見上げた槌矢は案の定猫目のままで、
何故だかつられるように立ち上がろうとしたは、
身体の不具合により立つ事すら出来ず、
よろめきそうになった瞬間伸ばされた槌矢の腕。
それを掴めば勢いよく倒れた。


「ご、ごめん・・・!!」
「いーっスよ、」
「あ、あのさ・・・」
「俺はあんたが必要なんだぜ、


だから一緒にいるんじゃねェか。
核心をついた言葉はを刺す。
思わず泣きそうだがそういうわけにもいかない。
の真正面にあるドア、そこにはあの時の男、伊武が立つ。


「ちょっと、重い、し・・・」
「は?」
「それに―」
あそこに、人が。
おーおーお盛んな事だなおい。
伊武の声が室内に木霊した。




「あの馬鹿又携帯繋がらねーでやがる・・・・」


あの後仕事に戻ったと会えずに、
もうじきワールドカップが開催される。
そもそもあの女が今どの国にいるのかも分からないまま、
槌矢は携帯を機械的なアナウンス毎切り試合へと向かう。

再UP
執拗に色んな人を織り交ぜる癖は
未だに抜けてません
2003/11/19