LOOSER

「あんたなんか嫌いよハーレム」
「ほうそりゃご挨拶だ」
「だからもう会わないからね」
「好きにすりゃいい」


戦い切り意気消沈したは俯いたままそう言い、
やはり疲れ切っているハーレムも他愛もない言葉を返した。
皆疲れ過ぎていた、はその手で肉親を殺しハーレムはその現場を只見ていた。
裏切り者は消すのよねハーレム。
気持ち青ざめたの横顔がやけに脳裏に刻まれており、
ハーレムは目を閉じたままその光景を思い出す。
が隊を抜けるという話を聞いたのはその後本部に戻った時であり、
ハーレムは断固反対をしたが既にマジックが処理をしていた。
マジックとて可愛がっていた兵士が抜けるのはどうにも気が引けたが、
あんな状態のを目にすれば引き止める術もなかった。


はどこだ!!おい!!」
「騒ぐな、見っとも無い」
「ふざけんじゃねぇぞクソ親父!!」


勝手に人の兵隊除隊させやがって。
我侭な息子が幾ら騒ごうとも術はない。
丁度一時間前には荷物をまとめ出て行った。
やけに迅速な行動を見る分には随分前から準備をしていたのかも知れない。
行く先は分からず出身地も分からない、はどこに行ったのだろうか。




手の平に唯一残ったものを並べた、赤い小さなガラスだ。
そのガラスは皹が入りお世辞にもきれいだとは呼べない代物であり、
それでもに唯一残ったものに違いない。
この手は身内を殺めた、最後まで隊長はその決断を渋っていた。
に手を下させるつもりではなかったのだろう。
極秘裏に処理されるべき事件だったのに。
まさか身内から裏切り者が出るとは夢にも思わず、
は少しだけ泣き(それは悔し泣きだったのだろう)銃を手に取った。
身内殺しは重罪に値する、迷いはなかった。


「足がないな・・・」


随分前に死んだ父親の事はよく覚えておらず、母親は今日この手で殺した。
新しい夫が敵対する人間であり母親は新しい家族を取った。
危険分子と見做されたの命を奪う為の行動は、に決断をさせただけだ。
あんたはあたしの敵になった、だからあたしはあんたを殺す。
恐ろしい娘だよお前は。
母親がそう言った刹那、の銃口は火を吹き母親は死んだ。
恐ろしいのは自分とて同じだ。


「さ〜てとどうやって行くかな」


それはどこへ。
昨夜の言い争いを思い出す。
ハーレムを越える愚言を吐き散らしたを止めたのは何とマーカーであり、
マーカーはの首に刃先をあて耳側で囁いた。
口が過ぎるぞ、ロッドは背後で腕組みし場面を見守り、
ハーレムはの真ん前で唇を舐めている。
あたしが殺すって言ってるじゃない何が不満なの、不満はないのだと。
只血の上りきった頭で行動されるのが迷惑なだけだ。
そんな事はすら分かっていた。


はよ、」


唐突にロッドが口を開く。
は首にあてられた刃先を指先で摘む。


「毎度嫌んなるくれぇ命懸けなんだよなぁ」


迷惑なくれぇ、両手を広げたロッドはそう言い笑う。
自分の手で決着をつけた方がきっと楽だ他人に手を下されるよりは。
あたしのこの口にセロファンのテープでも貼って、
そうしてあたしはそのまま死んで、
ハーレムは妙な気を使う。
お前はやんねぇでいいぜ
ポツリと呟かれた言葉が総ての始まりだ。
ハーレムはわざわざに一歩近づき、それでもは一歩後退した。
誰も近づかなければいい、そうすればいつもと同じ平坦な毎日が過ごせるだろう。


「・・・やったら消える」
「あ?」
「あたしの仕事は終わりよね」


結局は三角関係の縺れだったらしい。
今になり分かった事実だ。
の父親との母親、そうしてあの男。
若い三人は母親を巡り愛憎関係を滾らせた。
の父親が勝利を得たのも束の間、
男はの父親を殺し女を手に入れた。
惨めな生涯だ、父も母もその男も。
ようやくあちらさんが動き出したのだ、もうじき仕舞いになるだろう。




「おいおい俺らの隊長はどこ行ったよ」
「さぁな」
捜せつったってよ」


そっぽを向いたとそんなの肩に腕を回したハーレムの写真。
それを手に手に各地を回らされているのだ。
最初入って来たばかりのはまだ子供で、
徐々に歳を重ねたは年々捻じれていった。
結局はハーレムと懇ろになったらしいが、
それすら余りにリアリテイがない為理解しがたい。
どちらも子供のようなものだしその場合総じてどちらも性質が悪い。
しかし何分体勢さえ整えば子供でも子供を作る事が出来るご時世だ、
年齢的には子供と呼べるものではないのだし。
はハーレムに本当の事をどれだけ告げたのだろう。
当たり障りのない言葉の総てが嘘だった。
なぁ結局見つかんねぇんじゃね〜の。
ロッドの言葉は妙に的確だったがマーカーは何も言わなかった。


「おいお前ら!!」


は見つかったか、ハーレムの言葉が青空に響く。
その光景が笑えないほど間抜けだったので、
マーカーは思わず顔を背けるが仕方がない。
ハーレムがわざわざ一兵隊を捜している現状、それは笑える光景ではないか。


「いや〜〜まだっスけど・・・」
「ああ!?」


はきっと見つからないし、
が戻って来ない限り再会は望めないだろう。
あいつも出てく時にもっとビシッと傷つけてってくれりゃあよかったのによ。
うんざりとしたロッドがそう言うのも仕方がないのか。

何ていう年齢差
しかも、どうやら2003年のクリスマス更新…!?
2003/12/24