私の破片を掻き集めてそれで











随分と血塗れの女だなと言われた。
雪景色だから目立つのかと思った。
真っ白い雪の絨毯の上、赤黒く汚れた自分がまるで花の様に佇む。


ここがどこかは分からないまでも、
数秒前、確かに記憶にある過去とは、まったく違う場所だと理解した。
だからといって何かが変わったとも思えない。
何故なら、その過去も、この今も、変わらず争いの渦中だからだ。


落ちた衝撃で愛銃が消えてしまった。
あれだけは何としても探し出さなければならない。
この人生で唯一共に時間を過ごしたものだ。
この雪の中にでも埋まっているのだろう。


足元に転がる遺体を見やり、その隣に落ちていた銃を拾い上げた。
随分古い銃だ。このタイプは使った事がない。
だからといってじっくり検証している場合でもない。
ここはまるで戦場だ。


襲いかかる男を銃剣で刺殺し、状況の把握に努める。
この敵は何だ。



「…子供」



立ち位置から一直線、民族衣装を来た子供がいる。
弓矢を構えるその娘の死角、男が―――――
確認した時には走り出していた。












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「アシリパさんを守ってくれて感謝してるぜ」
「…杉元」



使い慣れない銃よりも、接近戦でのナイフ戦を選んだ。
ここでも、どこでも。返り血を浴びても何とも思わない。
娘を狙う男に近づき、背後から首を切り裂いた。



「…あの娘は」
「アシリパさんなら、お礼をしたいって、狩に出かけた」
「怪我はしてないのか」
「あぁ」



表情の乏しい中、僅かに安堵が見て取れる。



「あんた、随分慣れてるね」
「…え?」
「こういうの、何て言うんだ、これ」
「殺し慣れてるって事でしょ」
「…!」
「あんたもそうでしょ。見てたわよ」
「こう言っちゃ何だけどよ、女伊達らに凄いな」
「女伊達ら、ね…」
「あっ、いや、そういう意味じゃ」
「いいのよ、別に。どうだって」


何もかもどうでもいいとは言う。
軍服のようなものを着ているが、当然見た事もなく、
そもそも女が従軍するなんて話は聞いた事もない。
何の迷いもなく命を奪う女なんて初めて見た。



「…あの娘が戻るまで話してやろうか」
「えっ?」
「あたしの話」
「うん…」



相変わらず一切の興味がなさそうな口振りでは語りだした。












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産まれた国は既に混乱の最中だった。
長らく続く内戦で政府は壊滅状態、
入り乱れる様々な人種が互いに殺し合っていた。


そんな国に生まれ落ちた負を恨むべきなのか、
生き残った業を憎むべきなのかは分からない。
只、確かにはそこに生まれ落ち、
十歳の時までどうにか生きていた。
その頃の事はもうあまり覚えてはいないが、
そんな環境にも関わらず、ある程度は幸せだったように思う。


転機が訪れたのは、十歳の時。
もっとも人数の多いとある種族の襲撃を受けた日の事は、
今でも昨日の事のように思い出される。



「十歳…」
「そいつらは言うわけ、あたしに家族を殺せって。
 お前が殺せ、さもなくば我々が殺す。少しずつ刻んで殺すって」



お前が殺すなら一瞬だが、
俺たちが殺すなら時間をかけて
じっくりと嬲ってやると男達は笑っていた。



「…十歳のガキに、そんな事言ったって決められっこないのにね」
「どうしたんだ」
「殺した」



泣き慄くに対し、
両親はお願いだから殺してくれと懇願した。
そいつらのやり口を重々承知していたのだ。
細かく刻み苦しめながら殺す事が事実だと知っていた。


震える銃口は的確に眉間を捕らえ、
ものの数分で全員分の命を奪った。



「…両親も、兄弟も。全員殺した。
 あたしが、この手で殺した。
 あいつらは、これでお前も一人前の兵士だと言ってた」



そのままは兵士として訓練する事となり、
同じように自らの手で家族を殺した子供たちと共闘し、
より一層の混乱をきたす存在となる。


自らの手で両親を殺した子供たちに最早タブーはなく、
タガの外れた精神はより一層の残虐性を秘めた。
何もかも全てを殺し、奪う。


少年・少女兵を取り仕切っていた中年の男はパパと呼ばれ、
子供たちは唯一の大人であるその男を慕った。



「蔑む?」
「…いいや。だったら、どうしてアシリパさんを助けたんだい」
「…」



その男は自らを親代わりにと子供らの信頼を一手に受け、
暴虐の限りを尽くした。
信頼を餌に気に入った少女は犯し、
まるで脆弱な国の王を気取る。
王の部下たちも同じくであり、
全ての子供たちが身も心も搾取され続けた。



「妹に、似てた」
「…」
「自分で殺した癖に、おかしいでしょう」



そんな日々は内戦の終了と共に、あっという間に消え失せた。
男達は姿を晦まし、残されたのは柱を失った少年・少女兵だけだ。
そこで何もかもを失っていたのだと知り、
全ては取り返しがつかない事に気づく。



「…いや、分かるぜ」
「…」
「もう、心が戻れないんだよな」
「あんたもそうなのね」
「だったら余計に礼を言うぜ」



アシリパさんを助けてくれて本当にありがとうと、
今一度改めて言う杉元を前に、
何故だか涙が止まらなくなった
顔を伏せ膝の間に埋める。


あんたの気持ちは痛い程わかるぜと、
杉元の手の平がポンポンと頭を撫でた。
体育座りのまま肩を震わす。


狂ったように戦う理由は取り戻せないからだ。
一度失った人間性はどうしても取り戻せず、だけれど求める。



「あー!!!!」
「っ!?!?」
「杉元!恩人を泣かせるんじゃない!!!」
「ちっ、違うよアシリパさん!誤解だ!!」
「何が誤解だ!は泣いているじゃないか!」
「てか杉元、今、お前、頭ポンポンとかしてなかったか…?」



ストゥを振りかざしそこになおれといきり立つアシリパは、
どう見ても妹には似ていないのだし、そんな事は分かっている。
どうにか取り戻そうと足掻いているだけだと知っている。


ここへ来る前は何をしていた。
もう、理性もなく殺し続けていたのではなかったか。
こちらに危害を加える全ての人間を。



さんからも何か言って…!」
「えぇー?ちゃん大丈夫?杉元に何かされた…?」
「何か言ってって!」
、あのバカは成敗しておいたからな。腹、減ってるか?」
「あ、そうそうこれ」
「!」
「すげえ恰好いい拳銃、これ、ちゃんのだろ」
「えっ何それ、超恰好いいじゃん」



肌身離さず持っているこの愛銃は、
が自らの手で家族の命を奪った時に使ったものだ。
皮肉な事にあの日から最も長くと時間を過ごしたものになる。
失くしても失くしても不思議と見つかり手元に戻る。
今もこうして、白石の手からの元へ戻りゆく。


赦される道理など、どこにもなく、
只、心は戦場に置き座られたままこうして、
いつまでも救いを求め続けるのだ。





主人公設定:某国の少女ゲリラ兵士


大好きな杉元です
大好きな杉元を初めて書きました
いちゃこらの欠片の要素もない
アシリパさんを大事に思っている杉元が好きだから…
常日頃、倫理観のない話ばかり書いているのに
こういう時に限って保守的な自分が憎い


2017/11/04

模倣坂心中/ NEO HIMEISM