尾形の右手がのジャケット、その襟を掴んだ。
そのまま突き刺すように差し出された刃先を避け、壁に叩き付ける。
間髪入れず腹部を蹴り上げれば、が咳き込んだ。
成程、流石に自称大尉なだけはある。
刃先を突き付け合い、今に至るまで時間にして30分程か。
まあ、こちらは更々負ける気などなかったが、
よく訓練された大した女だと思った。
随分としぶとく、互いに満身創痍。
乱れた御髪を整え、未だ咳き込むに近づき、髪を掴んだ。
顔を上げさせる。
これまでに強かと殴り合っている為、頬が僅か腫れていた。
互いに息が荒い。
「大尉殿、もう降参したらどうだ」
「黙れ」
「女を嬲る趣味はないんだが…」
言葉を続けようとした瞬間、
が立ち上がり尾形の懐に飛び込んだ。
体制を崩した尾形が片膝をついた所を狙い、
顔面に膝蹴りをお見舞いする。
「…このクソ女!」
口元を抑えた尾形が半笑いでそう吐き捨てた。
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軍に所属して暫く経ったある日、先輩方に襲われた事がある。
女性の軍人が酷く少ない組織だった為、悪目立ちしていたのだと思う。
倉庫に連れ込まれ両手足を力づくで抑え付けられた。
あの時の恐怖、絶望感。
男共の顔の後ろに見える天井。
正義がそこにあり、生まれながらの悪人など存在しないと思っていた。
散々慰み者にされた後に発見されたは、
全てをなかった事にされた。
あの日、あの倉庫にいた男達は秘密裏に処分こそされたが、
随分軽い処分だった。
倉庫にはその時間、誰もいなかった事にされた。
発見後、軍の病院に担ぎ込まれたは長期間入院する事になる。
その間、延々と一人で考えた。
あいつらの、喉をかき切る方法を。
「…っ!!」
「うっ…!!」
結果、至近距離で殴り合う事態に陥り、
互いに口から血を吐き出している。
あれ以来、誰にも、何者にも負けずに生きてきた。
ふざけた真似をする奴らはこの手で殺してきたし、
一人として許してはいない。
こちらに手を伸ばすもの、手を下すもの、軽んじるもの。
全てだ。
まあ、その結果、腹心に裏切られ軍を追われる事になるのだから、
正しくはなかったのだろう。
何にもならない、何も残せない人生だった。
「…ふふっ」
「!」
「あぁ、悪い」
「流石、ご乱心中だ」
急に笑い出したを見て、尾形も笑む。
「最悪だよ、本当に」
「同意見だ」
「こんなに、お前なんかに殴られて」
殴られる度にあの時の記憶が蘇り、心が永久に騒めく。
犯された日から比べると随分こちらは強くなったはずで、
それでも敵わない場合どうすべきなのか。
最後の男はこの手で殺したはずだが、この身体はどうする―――――
空ぶった左手を尾形が掴み、一気に距離が近づいた。
の眼が尾形の目を射貫く。
乱れた髪、腫れた唇。もう着崩れた衣服。
その間、約3秒。
説明を求められても難しいが、
互いに、まるで貪るように口付けた。
もどかしく衣服を脱ぎながら。
アドレナリンが溢れ出て、もう収まりがつかないのだ。
殴り合えば殴り合う程、
感覚が研ぎ澄まされ肉体的な興奮が精神的な興奮とリンクする。
それは恐らく正しくない。
これは性的な興奮ではないはずだ。
だけれど、尾形の性器は酷く熱く滾っているわけで、
こちらの性器も受け入れ準備は万端だ。
このちっぽけな脳は、興奮を一つにまとめるらしい。
あの狭い倉庫ではありえなかった状況。
痛みに耐えかね泣いた己が浮かぶ。
「こんなの、間違ってるかしら」
「さァな、ただ、」
良いか悪いかなんて、俺の知った事じゃないぜ。
顎の下でそう囁く尾形の吐息は熱い。
の片足を持ち上げ、背を壁に押し付け
首筋に噛みついたまま挿入した。
が堪えきれず声を漏らす。
何故だか酷く興奮していて、正気を保てないほど気持ちがいい。
見ず知らずの、それもつい先刻まで
殴り合っていた男とセックスしている事実だけが全てで、
それ以上でも以下でもない。
只、どうしようもなくこれが欲しくて、
きっと相手を捕食したくて堪らないのだ。
元某軍の大尉→現軍事会社の対テロ部隊隊長
の、続きです
以前ついったで呟いていた
海外ドラマで侭ある、大喧嘩の直後に
何故だか流れでやるセックスの意味が分からない件
翌日に、肉食にふさわしい、相手を捕食したいという
気持ちなのかなー??
という見解を呟いた、あれの話です
2017/11/18
模倣坂心中/
NEO HIMEISM
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