あなたという安息の場所を、

完璧な男になんて到底なれないでしょうとが笑った。
そんな事はないのだと、思わず食ってかかりそうだったが飲み込む。
それは別に、彼女が笑っていたからではなく、
毎度の軽口だからなわけでもなく、
これから彼女が尾形と任務に出向くからだ。

そもそも所属が違う為、と杉元が同じ任務に就く事はまずない。
こちらは実働部隊だし、彼女は諜報部隊だ。
万が一の確率で、がこちらへ出向する可能性は
砂粒の一つ程度はあるかも知れないが、
実働部隊が諜報へスカウトされるなんて奇跡に近い。
まあ、その奇跡がなわけだが。

こうして仕事の合間に顔を合わせ、只々下らない会話を紡ぐ。
然程張りのない人生も、その時間の有無だけで有意義なものと変わる。

も杉元も、どちらもいざ任務に就くと明日の保証はない身の上だ。
生きるために全力は尽くすが、運の良し悪しが大いに影響する。
戦いの場所こそ違えど、その危険性は等しく同じ―――――

「…あいつと組むのかよ」

正面、遠くの方に任務へ出向くの後姿を確認した。
その隣には、そちらも見知った男、尾形の姿―――――

若手の出世頭である尾形と組むとなれば、
も順調に出世街道を邁進しているとみえる。
新人の頃、同期として研修を受けた二人が今はどうだ。

ぼんやり見つめていれば、2人の姿はドアに吸い込まれ消えて行った。

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先程から尾形は行動報告の話を延々としている。
そんな尾形の隣でハンドルを握っているは、
この余りの白々しさに苛立ちさえ覚えた。

今回の任務に呼ばれた理由にだ。
詰まらない事を喋り続けている尾形は、未だ目的地を告げもしない。
同じ道をグルグルと回っているのだ。

「…返事をしろよ、」
「…」
「お前の指揮監督者は俺だぜ」
「任務は何ですか」
「極秘だ、現地で説明する」
「現地って？行先も聞いてないんですが」

尾形が笑う。

「慇懃無礼な真似はよせよ」
「そんなやり口だから嫌われるんですよ」
「好かれてどうする？何かの役にたつのか？」

元々はお前だって同類だったろう。
尾形は言う。
毒されたなと。

「…そんな事を言う為に呼んだっての」
「俺はお前の指揮監督者だからな」

新人研修後、異例の大抜擢で諜報部隊へ引き抜かれた。
成績上位者から適性を調べ選ばれたとの説明だったが、
今となっては怪しく思う。

あの頃から直属の上司はこの尾形であり、
全てにおいて軌道修正を行っている。

右も左も分からなかったあの頃は、確かにこの男が全てで、
仕事も生き方も全てを手本とした。
まるで自分のクローンでも作るつもりだったのか、
尾形はそれを当然として受け入れた。

「上司としては尊敬してますけどね、それ以外はどうだか」
「何度か寝たろ」
「それとこれとは話が別ですよね」
「あいつとは寝たのかよ」
「…」
「そういうんじゃないぜ、只の興味だ」

他意はないのだと言う。

「…同期とは寝ないんで」
「どうだか」

同じ信号を三度通り過ぎ、尾形はようやく目的地を告げた。
ハンドルを切り、アクセルを踏み込む。

別に愛がどうだとか、そんな話をするつもりはないが、
この男の元で働く限り、自由は驚く程、制限される。

杉元と話すのは楽しい。
とても楽だし、あれは人の良い男だ。
だから尚更、似合いではないと思うわけで、
尾形のいうこちら側の人間だという呪縛から逃れられないでいる。

安全運転で行こうぜ、なんて似合いもしない軽口を叩く尾形をよそに、
次はいつ会えるのだろうと、柄にもない事を考えていた。

現パロ第二弾
最早恒例となりつつある、
とりあえず諜報とか実働とかの部隊がある
何かしらの組織に所属している話です
好きに保管して頂けたら幸いである
主人公と杉元が同期で、主人公の上司が尾形
夢のようだ

2017/11/09

NEO HIMEISM

Photo&Title : Raincoat.　 Design : klee