君が望む答えに気づかない振り









弾が貫通した左腕は熱く痺れていた。
まさか手負いになるとは考えてもおらず、少しだけ動揺していた。
とりあえず簡単な止血を行い、気を落ち着かせる為にしゃがみ込んだ。


最初の予定では、二時間前にターゲットと接触し、
目的のもの(それが何なのかは知らされていない。
中身は尾形だけが知っている)を受け取り、
その場を後にするはずだったが、当のターゲットが目前で殺され、
這う這うの体でアタッシュケースを掴み逃げ出した。
割と腕のいいスナイパーでも雇っているようで、
吹きさらしのホールをジグザグと逃げるは格好の餌食となる。


このアタッシュケースの中に何が隠されているのかは分からないが、
執拗な銃撃だ。取り戻すまでは終わらないだろうと思えた。
敵の数も分からず、片手は負傷中。
詰んだなと一人呟く。


相手がこちらを探し近づく隙を狙うしか術はなく、
ここで息を潜めている。
こんなにも消極的な戦いは随分久しい。
ある程度、実力がついてからは、手癖でこなしていた部分も多かった。
まあ、その油断がこの結果を招いたのだが、今更だ。


全ては自らが招いた。誰の所為にも出来ない。
指先に力が入るか確認するが、当然入るわけもない。



「…あ」



そういえばこんな目に遭ったのは二度目ではないか。
少しだけ昔の事を思い出していた。











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弱い癖に調子に乗るなと言いながら、尾形は手を差し伸べた。
初めての単独任務の直後の事だった。


途中イレギュラーな事態に陥り、本部と通信が取れなくなったは、
どうにか必死に任務を遂行したが、数発の被弾というダメージを負った。
通信切断後、直属の上司である尾形が即別動隊を編成し、
の救出作戦を指揮したらしい。


銃撃戦の後、ザリザリと石粒を踏みながら近づいて来た尾形は、
普段通りのスーツ姿で、片手にライフルを携えていた。
そのままタンカに乗せられたに告げたのが、上記の言葉であり、
悔しいのか恐ろしいのか口惜しいのかは分からなかったが泣いた。


その後、弾丸の除去手術を受けたは休暇を与えられ、
自宅療養を余儀なくされる。
悔しくて仕方がなかった。


職場に復帰したに対し、尾形は特に何かを告げるわけでもなく、
以前と変わらない態度で接する。
勝手に心揺れたのは、恐らくこちらの方だった。


まあ、今思えば若い娘が頼れる大人の男に憧れを抱くなんて、
掃いて捨てる程ありふれたストーリーだし、
思い出すだけ恥ずかしい記憶だ。


すっかり忘れていたのだが、確か三度目の任務時、
あれは尾形と二人で行動したと思うのだが、
夫婦を装い宿泊したモーテルにて、こちらから手を伸ばした。
一拍置いた尾形は何も言わなかった。


という事は、記憶の限りでは何も言わずこちらを抱いたわけで、
それもどうかと今となっては思うのだが、
あの時のにとっては極めて重要な事象だったのだ。
あの狭い部屋で互いに抱き合い身を弄り合った時間は永遠で、
その後のに多大な影響を与えた。だけに。


決して尾形からは触れない暗黙のルールの元、
逢瀬は果て無く続きそうに思えた。
思えたが、当然そんなわけはなく、
他の女と姿を消す尾形の背を二度、三度と見送った後に自然消滅した。
我ながら間抜けな真似をしたと思う。


というか、今このタイミングでその事を思い出す必要は
どこにもないわけで、最悪なコンディション下、
最悪なモチベーションに陥る。


その後も上司と部下という関係には一つの歪も出来ず、関係は今に至る。
自然消滅した後も幾度か寝たが、心が伴うような、
そんな意味合いのものではなかったと思う。


そうこうしている内に、暗黙のルールは破棄され、
尾形の方から腕を伸ばす瞬間もあった。
心はいつだって相容れない。
まあ、互いに、今更な話だ。


ミシリミシリと近づく足音に耳を澄ませ、
力の入らない指でどうにか銃を構える。
接近戦に持ち込めば多少は勝率が上がるか。
息を止め、目線を上げ―――――



「おい、。お前、そこにいるんだろう?」
「!」
「まったく、手間のかかる部下だ」



前髪をかき上げながらそう言う尾形は、
あの時と同じような姿でそこにいる。
ライフルを担いでいるところをみると、
スナイパー対決は尾形の勝利という所か。


確かにあの頃、愛を抱いていた。
それが間違いだったとしてもだ。
差し伸べられる尾形の手は昔と変わらず、
まるで消えたはずの愛のようだと思った。





現パロ尾形の続きというか、過去というか
昔こんなだったんですよ説明パート
正直、こんな男と組んで仕事とか
もう仕事にならないと思う


2017/11/12

NEO HIMEISM