きっと君しか愛せない
急に引かれた腕が痺れる様に熱かった。
何が起きたのか分からず、反射的に腕を引いた人物、
その顔に視線を移す。
尾形。
エレベーターの中から腕を引いたのは尾形だった。
ドアに挟まれそうになり、咄嗟に中へ飛び込む。
お疲れ様です。
確かそう声をかけたと思う。
尾形は特に何も言わず、こちらに視線も寄越さない。
只、腕だけは掴んだままで、酷く居心地が悪いと思った。
遠征から戻り、初めての再会だ。
先に挨拶をしておくべきかと思ったが、
中々タイミングが合わず先送りしていた矢先の出来事。
あの遠征はのキャリアにとても影響を与える事となった。
今しがたも、特殊部隊の面々と話をしていたところで、
今後の活動範囲が広がる予感をひしひしと感じさせた。
そんな折の動揺。
背後で開いたエレベーターの中から腕が伸び、身体ごと引かれた。
「…どうしたんですか」
「…」
「あの、手を」
「…」
誰かに見られたら困るのだと、はっきりとは言えないが暗に匂わせる。
互いに厄介事には巻き込まれたくないはずだ。
それでも尾形は手を離さず、
エレベーターはどんどんと地下に吸い込まれていった。
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地下15階のフロアに降りた尾形は、
薄緑の照明に照らされた廊下を延々と進んだ。
このフロアは倉庫として使われているはずだ。
又、セキュリティランクも高い為、
それこそだけでは入る事が出来ない。
(まず、このフロアにエレベーターが止まらない)
廊下の両脇にある扉は全てに電子ロックがかかっており、
エレベーター同様セキュリティカードが必須となる。
一つのドアの前で尾形が立ち止まり、ロックを解除する音が聞こえた。
「あの、尾形さ」
「ここ」
「え?」
尾形の手の平がの背を押した。
非常灯のぼんやりとした明かりしか灯らない
薄暗い室内に一歩、飛び込む。
背後でドアの閉まる音がした。
続いて自動ロック。
尾形さん。
そう言いかけ振り返る刹那。
そして今。
ふと覚醒する意識が理解を阻害する。
冷えた床で目覚め、重い身体をどうにか動かした。
ぼんやりと焦点の合わない視界の奥、
床に座り煙草を吸う尾形の姿が見える。
やけにぼやけた姿で、きつく目を閉じた。
頭の中ではあの、遠征時に月島と会話した際の記憶がリフレインしている。
お前、尾形と寝てるんだろう。
もう一度目を開ける。
この余りに馬鹿げた室内には不要な熱が充満している。
部屋に入るすぐに尾形はを抱き締め身動きを封じた。
驚いたが身を離そうともがけど微動だにせず、
そのまま身体は床に組み敷かれる。
どうした、別に初めてじゃないだろ。
尾形の声は普段と変わらず、それでも眼差しは冷え切っていた。
何が起こったのか理解が出来ず、それでも危険な展開には違いない。
やめて、だとか離して、だとか。
そういった類の言葉を発したように思う。
恐らく初めてだ。
尾形に対し、否定の言葉を発したのは、この時が初めてで、
そういった言葉を投げられた尾形が酷く不快そうに
眼差しを歪めるのを見たのも初めてになる。
厄介そうな、面倒そうな表情で言う事を聞けとばかりに力が込められた。
てっきり知っていると思っていた男の指は、
まるで知らない動きで身を弄る。
それが不思議と大変不快で、動揺は更に広がる。
これは、何だ。
これは、一体―――――
気づけば好きに弄られた身体に尾形は易々と侵入し、
知ったやり方で好きに動く。
荒れた息が室内に木霊し、肉のあたる音が響いた。
それでもやはり頭の中ではあの会話が繰り返し流れる。
元々何もないはずのこの関係は、いつから拗れた。
こちらの与り知らぬ間に。
ぐっと力を入れ、尾形が身を屈めた。
顔が近づき、視線を下げると目が合った。
そこに只あるはずの風景は酷く歪んでいて、
これが永遠に続くのかと思うと死にたくなる。
ほんの少し前までは自ら求めていたはずなのに、この落差は何だ。
目を逸らさない尾形に負け目を閉じる。
地獄のようだと思った。
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だから薄目を開けて、ほの暗い室内を見ている。
無理矢理に開かれた身体は節々が悲鳴を上げ、
まるで他人の身体のようだ。
何故、どうして。
これの理由を求める事は恐らく出来ない。
これまでの思い出全てが今まさに自身を責め立て、
もう何もする気になれない。
立ち上がる事も、責める事も、泣く事も何も。何も。
憎む事も出来ず嫌いにもなれない。
こんな目に遭っても。
業務用のスマホが僅か震え、
視線の先では尾形が既に内容を確認している。
「…仕事だぜ」
「…」
それでも条件反射で身体は動く。
急に現実に引き戻された身体は未だ現実味がなく、
只ひたすら、喉が渇いていた。
何となく続いている、
先輩尾形社会人シリーズ(過去篇)の続きです
何で急にこんな展開になるんだと
微エロという謎のカテゴリ
2017/11/18
NEO HIMEISM
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Raincoat.
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