見つからないように地面に埋めて

• どうにもならない苛立ちを吐き出すかのように、
  兎角、尾形は無造作に触手を伸ばす。
  この事態に何かしらの意味があるのかは分からない。
  これのきっかけも今となっては分からない。
  
  
  
  「―――――ぁ」
  
  
  
  あの、地下での一件以来、この爛れた関係が息を吹き返した。
  新たな一面を見せ、より一層の拘束力を持つ。
  
  
  現に今だって、この執務室にて互いに身を貪り合っているわけで、
  もう取り返しはつかないのだと知っていた。
  
  
  あの一件を尾形が口にする事はなく、
  そういえばあの日も何食わぬ顔をし地上へ出て、
  滞りなく仕事を片付けた。
  
  
  言及しなかったのは己の甘さだろうか。
  犯されたとは微塵も思っていないからだ。
  
  
  これまでこちらが手を伸ばす以外にありえなかった事象が起きている。
  何故。それだけを口に出来ぬまま。
  いつだって素知らぬ顔をし、一日は訪れ、何の脈絡もなく表情を変える。
  
  
  共同作戦の報告書を渡すべく、執務室を訪れたのは
  23時を回った頃の事だった。
  ここ暫く、外での任務が続き書類仕事が溜まっていた。
  ノックをし、ドアを開ける。
  
  
  
  「…まだいたのか」
  「報告書です」
  「見せてみろ」
  
  
  
  尾形が無造作に腕を伸ばす。
  その一瞬、ほんの一瞬だ。
  僅かに躊躇した。
  
  
  あの地下の一件はじくじくと膿み続けている。
  まるで気にしない素振りで過ごしているが、尾形を見る度に思い出す。
  
  
  尾形はその、ほんの一瞬の躊躇に気づいた。
  目線だけでこちらを見、報告書を受け取る。
  
  
  よくよく考えれば、あれ以来、
  尾形と二人きりになる事態を意識的に避けていたように思う。
  自意識過剰かも知れないが、
  どう対処していいのかが分からなかったからだ。
  気持ちの置き所がなくなる。
  
  
  だから、こうして所在なさげに指先を見つめ、
  尾形のGOサインを待っているわけだ。
  最も期日の近いこの報告書さえ上げれば、一先ず家には帰る事が出来る。
  内容的には問題はないはずだ。
  後は尾形のサインさえ頂ければ終わる。
  
  
  尾形が万年筆へ手を伸ばす。
  ペン先が紙を削る音。
  
  
  やはりどうしても重苦しい雰囲気に変わりはなく、
  随分やり辛いなと思った刹那。
  二度、重なった眼差し―――――
  
  
  
  「ぁ、ちょっ、やめ」
  
  
  
  ゆらりと立ち上がった尾形は、
  報告書を手渡さず、こちらへ近づいて来た。
  何故か動けなかったを見下ろし一言。
  
  
  どうした。
  
  
  まるで、何事もないかのように。
  
  
  この泥濘は何だ。
  こんな泥濘は知らない。
  どこまでも沈みゆく、底なしのそれ。
  捕まったのは、こちらか。
  
  
  反射的に顔を背け、部屋を出ようと背を向けたを
  背後から抱き留め、そう冷たくするなよと囁く。
  耳の下から首筋を舐められ身動きが取れない。
  
  
  目前に聳えるドアがやけに遠い。
  時間は遅いが、まだ残っている職員はいるし、夜勤の人間もいる。
  
  
  尾形の右手が容易く滑り込み、が身を屈めた。
  そのまま抱え上げられ、
  先程まで尾形がサインをしていた机に乗せられる。
  右手に報告書が触れた。
  
  
  
  「ちょっと、やめて」
  「何が」
  「こんなとこで、何考えて」
  
  
  
  の手首を掴み、身体ごと机に押し倒す尾形の視線が宙を舞う。
  二人の影が重なるように大きく動いていたからだ。
  それもそうだなと呟き、照明を消す。
  そういう問題じゃないと、が身を起こそうとするが口付け防いだ。
  
  
  もうすっかり慣れ親しんだ身体だ。
  どこをどう触ればどうなるかなんて分かっていて、それでまだ触れる。
  
  
  これのきっかけが何だったにかは未だに理解出来ていない。
  すぐそこにある、そこにあるべきものが急に姿を消したからか。
  これが可愛いだとか、愛しいだとか、
  そういう愛玩的な感情ではないはずだ。
  そんなものでは足りない。
  
  
  息の上がったは諦めたように目を閉じ、顔を背ける。
  やけに疲弊する時間の幕開け。
  両腕で顔を隠したを見下ろしながら、
  邪魔なネクタイを緩め、ベルトを外す。
  
  
  
  「…何でこんな事するんです」
  「…」
  「あたしはどうしたら、」
  「お前はどうして逃げないんだよ」
  「…！」
  「図星なら、問題ないって事だろ」
  
  
  
  酷く参った様子のを見ると、何故だかやけに興奮する。
  こうして縋り、手を離さなければ俺の庇護下、
  いつまでも守ってやれるのに。
  何て、よくない。
  
  
  膝を撫で唾液で濡らした指を挿れ、指の腹で擦る様に動かす。
  が口元を覆った。
  多少の抜き差しで容易くその身は震え、とめどなく体液は溢れる。
  
  
  もう既に理性はおらず、只そこにあるだけの頭で、
  これから先の事を考えていた。
  短期間に幾度も達し、最早苦しみに近い快楽の中、
  逃れられないこの泥濘の底を思う。
  
  
  これでこの男を憎む事も難しく、只この身を憐れむのも虚しいだけだ。
  こうして縋り、この身を差し出せば、全ては恙なく終息するのか。
  だけど、それは、
  
  
  
  「…………！！！」
  
  
  
  好きに焦らせた身体に尾形が入り込み、
  もうどうでもいい思いは霧散した。
  声を殺す事さえ苦しく、尾形の胸に唇を押し付けどうにか堪える。
  覆い被さる尾形の身体はまるで夜の様で、何もかも全てを黒く染める。
  心も身体も。
  
  
  息も絶え絶えのを起こし、尾形が椅子に座った。
  を跨らせる。
  
  
  
  「も、ちょっ…」
  「動けよ、」
  「…っ、無理だから、」
  「…ハハッ」
  
  
  
  だから、尾形にしがみついたまま、男の笑い声を耳している。
  もう明らかにこの身体は無力で、何一つこの男には勝てない。
  
  
  背もたれに寄りかかり、楽そうに身を上下させる尾形は
  乱れ垂れた髪をかき上げている。
  丁度、がドアに背を向けている状態だ。
  
  
  
  「お前も動けって―――――」
  「…！？」
  
  
  
  急に動きを止めた尾形が笑った。
  を引き寄せた状態でだ。
  
  
  
  「取込中だぜ」
  「…鍵をかけろ」
  
  
  
  背後で聞こえたのは確かに月島の声で、一気に全身が総毛立つ。
  突如、現実へ引き戻された感じだ。
  思わず振り返ろうとするが尾形の腕がそれを阻む。
  
  
  正気に戻ったが尾形を見上げた。
  未だ繋がった状態で。
  
  
  不真面目な沈黙に言葉を失っていれば、
  尾形の性器がより一層固くなった気がした。
  
  
  
  

  お題箱リク分です
  ありがとうございます
  執務室プレイです
  職場で何やってんだと
  海外ドラマならあるよあるある
  最後の月島は、報告書を受け取りに来たわけで、
  うわっと思っただろうな。。。
  
  
  2017/11/21
  
  NEO HIMEISM