大人になる前に生を終えようと思っています

昨晩から一切の通信を無視している理由は、この二日酔いのせいだ。
簡単にいうと何一つやる気が起きず、
自室で死体のような時間を過ごしている。

この通信の相手はあの男だと決まっているわけだし、
あの男からの連絡という事は、とりあえず面倒な話になるわけで、
基本的に何もしたくないにとって、望ましくない展開だ。

昔からこんな生き方をしていて、
今更そう簡単に変えられるとも思ってはいないし、
そもそも変える気など更々ない。

毎晩毎晩、どこぞの盛り場で開かれるパーティに繰り出し、
誰とも知らぬ男女と交わり一日を終える。
過去を思えばこんな生活が出来ている事自体、奇跡に近い。
恐らく、だから抜け出す事が出来ないのだと思っている。

又、スマホが震えた。
一度だけ視線を落とし、無視をした。

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初めてその男に出会ったのも、そんな盛り場の内の一つだった。
安い酒を片手に見知らぬ男に身を預け、上階の部屋へ向かう。
連れ込み部屋のようなその建物は
犯罪者の巣窟として名の知れた場所で、のテリトリーだった。

電話一本で成立する簡単な殺人。
料金は全て仮想通貨で前払い。
依頼人に直接会う事は一切なく、只指定された相手を連れ込み殺す。
代理人もおらず、無論、後ろ盾もいない。
そこかに所属しているわけでもなく、全てを一人で行っていた。

動機は何かと聞かれると、それはにもよく分かっておらず、
唯一はっきりといえるのは生活する為の
金を得る手段だという意識が強かったという事くらいだ。
お金がなければ生きてはいけないし、
お金を得るには何かをしなければならない。
だから、自分が一番得意な事を仕事にした。
殺しだけは幼い頃から叩き込まれているからだ。

その日も、糧を得る為にメールを開き、
ターゲットとの合流方法を確認する。
珍しくが部屋へ出向く形だったのを未だに覚えている。

連れ込み部屋なりの最上階、ワンフロア。
中に入れば男がベットに腰かけており、愛想よく挨拶をした。

「…こいつは想定外だな」
「え？」
「Dキラーが、まさかこんな小娘だとは」
「え？何？」

肩にかけていたバックをテーブルの上に置きながら、
何食わぬ顔をし、わけのわかんない事ばっかり言わないでよ、
なんてそんな事を言い、室内を見渡す。

他に仲間はいない。男一人だ。
確かにこんな、場末の連れ込み部屋に来そうなタイプの男ではない。
仕立ての良いスーツを着て、手入れの行き届いた髪型。

そして何より、あの見透かすような眼差し。
こちらを値踏みするかのような、まるで心のないそれ。
知っている。それは知った眼差しだ。
全て殺したはずだが。

「…お客さん、どこの人？」
「知りたいか？」
「気になっただけなんだけど」

薄いクラッチバックを開け、中に潜ませている銃を手に取る。
背を向けてはいるが、一面が窓ガラスの右手側で男の姿は確認出来る。
男は、ベッドに腰かけ、まだこちらを見ていた。

「旧NGP」
「…」
「五年ほど前に組織の壊滅が伝えられたテロ組織だ。
　お前は当然知ってるよな」
「さぁ…」
「組織の壊滅は一人の子供によって引き起こされた。
　生存者からの証言だ。そいつはまだ生きてて、お前の写真を見てる。
　間違いないってさ」

振り向きざまに銃口を向け、間髪入れずに引き金を引く。
男はそこにはおらず、左側から勢いよく殴られた。
反射的に腕で防御しようとするも一瞬、足りず、
窓ガラスに突っ込む。
安い窓は簡単にヒビが入る。

「人の話は最後まで聞くんだな、」
「あんた、何で、人の名前を…」
「俺と契約しろ。専属契約だ」
「…は、？」
「後ろ盾があるってのも、そう悪くないさ」

つい今しがた、自分が殴り飛ばした女に対し、
当然とばかりに右手を差し出す男の名は、尾形。
男も自身の素性は一切伝えなかった。

只、こちらのスマホに番号を登録し、唯一の通信方法だと告げられる。
ここに俺が連絡をしたら、何があってもすぐに出ろと、言っていた。
お前がどこで何をしていようが、俺は一向に構わないし、
言われた通りの事をやってくれ。
報酬は高額を約束する。
お前が、失敗さえしなければな。

暗にプレッシャーをかけるも通用しない。
今のあたしに選択肢はないのね。
尾形の手を掴みながら、が呟いた。

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「おい」
「…勝手に入って来ないで」
「ふざけた女だ」
「家宅侵入で訴えるわよ」

ベッドにうつぶせたまま、ノブの回る音を聞いていた。
とうとうお出でなさったかと思うが、如何せん身体がまったく動かない。
昨晩のあれは随分と悪い酒だったに違いない。
後、少量のハッパも。
遠慮もなしに廊下を進み、このLDKへ到着。

「俺からの連絡には絶対に応えろと言ってるだろうが」
「…そうだっけ？」
「起きろ、バカ女が」
「ちょっと、無理だって」

のこの、乱れた私生活を尾形は把握しているはずだ。
出自の哀れさも、その結果の凄惨さも全ており込み済みで近づいた。
自分だけの特別な始末屋が欲しくて探し回った特別な駒だ。
好きにする分には構わないが、身を持ち崩されてはかなわない。

一見しただけでは決して信用出来ないが、
この女は殺しのプロであり、様々な組織から狙われている。
己を育て育成したテロ組織を壊滅させた理由は分からないが、
の情報を垂れ込んだ男は数少ない生き残りの一人であり、
をずっと追っていると言っていた。

あの女は生かしておけない、いや、生かしておいてはいけない。
あれは危険な女だ。

お前たちが作った女だろうと言えば、だからだとこたえる。

あれは私の最高傑作であり、最大の過ちだ。
あれを扱えるなんて思うなよ小僧、あれは―――――

「とりあえずシャワーを浴びて来い。酒臭くてかなわん」
「えぇ…？」
「仕事だ」
「全然気が乗らないんだけど…」
「…」

一切ベッドから動く気配のないを片手で抱え上げ、
シャワールームへ叩き込む。
酷く痩せた身体は力なく、崩れた化粧のまま目も開けない。

これが各国の機関から追われている、
姿なき殺し屋の正体なのだから、現実は常に曖昧だ。

シャワーを出しドアを閉める。
ふざけやがって。
の声が聞こえた。

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「――――で、何」
「ようやくお目覚めか、バカ女」

覚醒したは素っ裸で歩き回っている。
恥の概念はないらしい。
否応なしに目に入るその身体は傷だらけであり、
だから人目につく個所にはタトゥーをいれまくっているのだと理解した。

ありとあらゆる痛みを与え、ありとあらゆる苦しみを叩き込んだ。
気の狂う者ばかりの中、唯一生存した被験体がだ。

あれはまともじゃない。最早ひとではない。
驕るな。あれは。

「何ジロジロ見てんのよ」
「服を着ろ」
「詳細は」
「…」

毎夜毎夜、明日が来なければいいのにと、それだけを祈り酒を煽る。
これが最後、この詰まらない日々は今日これで終わり。
それなのに次の日は当然訪れるし、その詰まらない営みは繰り返される。
いついかなる時も、たとえどうなっても。

この尾形が登場し、その詰まらなさに少しの変化が訪れたが、
どう転ぶかは分からない。

尾形が持ってくる依頼の大半は、恐らく尾形個人のものだ。
動機を確認した事はないし、するつもりもない。
面倒だし興味もない。

この男は自分を使い、やりやすいように事を運んでいる。
その程度は分かっている。
そうしてその軸に、自分は生涯交わらないのであろう事も知っている。
住んでいるステージが違うのだ。

わざわざこうして出向く辺り、面倒見は良いのだろうが。

「相変わらずあんたが持ってくる仕事はつまんないわ」
「そうでもないさ」
「あたしをどこまで利用しようって腹なの」
「…人聞きが悪いな」
「別にいいのよ、どうでも。お互いにいい関係ね、あたし達」

酒の抜けたは、これはこれで扱い辛く、
あの男の言葉を思い出す。

明瞭な時間が増えれば増えるほど、
この女は脅威になるだろうが根は変わらない。
この女の求めているものはハナから理解っている。

「おい」
「何よ」
「死にたくなったら俺に言えよ、。死にたいが為に手は抜くな」
「あんたが殺してくれるっての、尾形」
「あぁ」
「…」

そいつは魅力的な殺し文句ねと呟き、
でもあたしはあんたと寝る気がないのよと返せば、
俺もだよと、尾形が笑った。

先輩尾形の別軸分、
別名、雇い主尾形です
年齢は十代後半とクソ若いので、
尾形の事は完全におっさんだと思ってます
この主も並走してやっていく予定、、、
愛とか恋とかじゃないです

2017/11/25

NEO HIMEISM

Photo&Title : Raincoat.　 Design : klee