何も聞きたくない、聞きたくないから

• あんな事があっても日常は当然訪れるわけで、
  あの部屋で尾形と顔を合わせる日々だ。
  
  
  我ながらどうかしていると思うが、尾形だって平然としたものだ。
  恐らく、どうかしている二人が
  懇ろになってしまっただけなのだと考えるようにした。
  
  
  流石に月島とは顔を合わせていない。
  どんな顔をしていいか分からないし、
  どんな言葉を発せばいいのかも分からないからだ。
  
  
  そうしてそれはきっと月島だって同じはずで、
  意図的に彼もこちらを避けているような気がしている。
  
  
  あの後、とりあえず最後まで抜いた尾形は
  (それもどうかと思うが)笑っていた。
  ちっとも笑えなかったは、
  すぐにでもそこを逃げ出したかったのだが、尾形の言葉に動きを止める。
  
  
  悪い悪い、冗談が過ぎたな。
  
  
  思わず振り返り聞き直す。
  肩ひじを付き、こちらを見ていた尾形は、笑いながら言う。
  
  
  すっかり忘れたんだ、わざとじゃないぜ。
  
  
  こんな時間に月島が訪れた理由が分かり、
  全てこの男の仕組んだ罠だったのだと知り言葉も出ない。
  
  
  何故、一体、何の為に。
  至極楽しそうに笑っている尾形に問う事も出来ず、
  そそくさと部屋を後にした。
  
  
  
  「お前、今日予定は」
  「あ、用あるんで」
  「…ふうん」
  
  
  
  尾形はこちらを見もせずそんな事を言ってくる。
  流石に今更そんな誘いには乗れず、
  こうして断り続けて幾度目になるのか。
  
  
  誘いはしてくるものの、それ以上の話には決して至らず、
  今日も部屋を後にした。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  当然用などなく、最寄り駅の側にあるバルへ吸い込まれる。
  仕事帰りのサラリーマンや、
  友達同士で楽しそうに語り合う学生で賑わっている。
  
  
  この店は手ごろな価格で味もよく、
  しかも明け方まで営業している為、重宝している。
  
  
  
  「お、じゃーん」
  「いつものよろしくー」
  「どうせ今日も一人だろ？カウンターでいいよな」
  「言い方」
  
  
  
  この店の店長である白石は笑いながらキッチンへオーダーを伝えている。
  この店は入口からL字型にカウンターが設置されており、
  一人で来ているのであれば、その一番奥に座れという事だ。
  言わんとする事は分かるが失礼な話である。
  
  
  席へ向かうまでにすれ違う他のテーブルには、
  妙齢の男女が座っている。様々な組み合わせだ。
  
  
  そういえば尾形とはこんな店に来た事がないな、
  なんてどうでもいい事に気づいてしまった。
  やはりそういう関係なのだと否応なしに理解出来、
  自己嫌悪が襲いかかる。
  
  
  そもそも、この店内にいる男女の何割がそういう関係を持っていて、
  後悔しない朝を迎えているのか。
  
  
  
  「はーいお待たせしましたー」
  「…」
  「ほら、そこ。そこ座れって」
  「…いや、」
  
  
  
  とりあえず一杯目は生という、
  のルーティンを熟知した白石が
  キンキンに冷えたジョッキを持ち着席を促す。
  
  
  立ち尽くすの目前、カウンターの一番奥の席。
  しまったという表情の月島が座っていた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  結局、そこに座る事になってしまったは考えあぐねていた。
  あの月島の表情を見るに、彼も相当気まずいはずだ。
  
  
  何せこちらは(職場で)(しかも直属の上司と)
  真っ最中を見られているのだし、
  その不健康な関係性の話を少し前にしたばかりのはずだ。
  
  
  その際に忠告を頂戴した挙句の、この体たらく振り。
  合わせる顔がないとはまさにこの事だ。
  
  
  互いに無言のまま、とりあえずジョッキを空にした。
  こうなるともう最後はアルコールに頼む他ない。
  
  
  
  「お前、今日ペース早くね？」
  「いいから、おかわり」
  「ま、俺はそっちの方がいいけどーあざっすー」
  「俺もだ」
  「あざすー」
  
  
  
  二人、どんどんと飲み干していく。
  時間にして30分程だろうか。
  随分と酔いの回ったが、徐に口を開いた。
  
  
  
  「…そういうのじゃないんですよ」
  「…何がだよ」
  「いや、あれ。あれはそういうんじゃなくて」
  「聞いてねぇよ別に…」
  「気にしてるのは、そっちでしょ！」
  「俺をプレイに巻き込むなよ」
  「…！！」
  
  
  
  が急にこちらを向くもので驚いた。
  酒のせいなのか羞恥のせいなのか、酷く顔が赤い。
  
  
  
  「そっ、その言い方…！」
  「鍵を閉めろ、鍵を」
  「…！！！」
  
  
  
  両手で顔を覆い突っ伏したを見ながら、
  又、グラスを空ける。
  自分で思っているよりも酔いは回っているらしい。
  随分と口が軽くなっている。
  
  
  
  「そもそも、お前はどうしたいんだ」
  「…えぇ？」
  「別に言い訳なんかしなくていいだろ、お前と尾形の問題だぜ」
  「…！」
  「一々俺に言い訳なんかして、どういうつもりだ」
  
  
  
  ああ、これは。いけない。
  
  
  
  「俺にどうして欲しいんだ、お前」
  
  
  
  例えどんな事が起きても、どうにか立ち直れるもので、
  だから俺以外の奴らと、どこか他の場所で
  好きにしてくれよと思うわけだ。
  
  
  それなのに、このは無防備にも真正面から近づく。
  最も弱った姿で。
  
  
  
  「あたしは―――――」
  
  
  
  が顔を上げ、何事かを呟こうとしている。
  その顔、唇。
  
  
  酔いの回った頭では視線さえコントロール出来ず、
  今にも勘違いしてしまいそうだと、柄にもなく思っていた。
  
  
  

  先輩尾形続き
  白石は安くておいしいバルの雇われ店長です
  人気店である(朝5時まで営業)
  ついったでも書いたんですけど、
  月島はグツグツ煮込んでからのドーンが似合うので
  とりあえずグツグツ回です
  主人公が、あの、、、ビッ…
  ビバヒルに出て来るタイプの女ですね
  
  
  2017/11/28
  
  NEO HIMEISM