生きたいと願った幽霊

• 余りの寒さに目が覚めた。
  辺りには古い材木の破片が散乱しており、
  そう言えば足場が崩れたなと少し前の記憶を辿る。
  5メートルくらいの高さから落下したらしく、
  どうやら意識を失っていたようだ。
  
  
  辺りを見回すが辺見の姿はなく、逃げたのだろうと予想する。
  こちらも足場の崩壊のせいで、刃を深く押し込めなかった。
  殺しそびれたのだ。
  
  
  自身が倒れていた場所には血溜まりが出来ており、
  この異常な寒さの理由が知れる。
  両手を付きどうにか膝を立て、壁の方へ這った。
  指先は信じられない程、震えている。
  出血が多すぎるのだ。
  
  
  
  「…」
  
  
  
  死ぬのかと、初めて思った。
  これまで散々死にたいと願っていたが、
  最後はあいつに殺されるのか。
  あの男に負けて死ぬのか。
  
  
  まるで走馬燈のように過去の出来事が流れ出し、吐き気が止まらない。
  過去なんて基本的に思い出したくもない集合体だ。
  
  
  頭の中を弄られていた瞬間、仕置きと称し電流を流されていたあの頃。
  辺見を半殺しにした時の光景。
  燃え盛る建屋、そして―――――
  
  
  震えが酷くなり、床に転がり
  身を縮めたの側でスマホが鳴り響いた。
  震えて幾度も落としながら画面を見る。
  
  
  尾形。
  
  
  尾形からの着信だ。
  一度目を閉じ、開く。
  血のついた指先で画面を力いっぱいなぞる。
  
  
  そうして、助けて。
  震える声でそう呟いた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  あの後、思ったよりも早く尾形はこちらへ到着した。
  その手際の良さに一つの疑問が確信に変わる。
  この男はこちらの居所を把握している。
  渡されたスマホのGPSが妥当か。
  
  
  これまでも薄々そうではないかと感じていたのだが、
  その疑問が確信に変わる瞬間だ。
  だからといって、そう悪いばかりでもない。
  現に今、この瞬間だけは助けられた。
  
  
  この、居場所の把握という悪趣味なやり口は、
  一般には受け入れられないだろうが、
  こういった仕事に関しては大いにあり得る。
  
  
  昔は体内に埋め込まれていた為、
  尾形のやり口は人道的だとさえ思えた。
  
  
  
  「お前、何をしてた」
  「…」
  「それ、やられたんだろ。辺見に」
  「…」
  
  
  
  尾形に支えられ歩くは一言も答えない。
  発見したは床に倒れ伏しており、
  死んでいるのかと思ったくらいだ。
  それ程の血溜まりが出来ていた。
  
  
  この女を病院へ連れて行くのはリスクが高すぎる。
  しかし、このままでは恐らく死ぬだろう。
  折角、手にした駒をここで失うのは酷く惜しいがどうする。
  時間の猶予が余りにもなさすぎる。
  
  
  
  「おい、出血の量が多すぎる、死ぬぞ」
  「…」
  
  
  
  震えを止めるように、拳をきつく握ったは、
  とある古いラブホテルに連れて行けと言った。
  この路地裏を突っ切り、駅前の大通りに出てすぐの場所だ。
  繁
  
  華街の丁度裏口に古くから建っており、
  無論尾形が利用した事はないが
  (当然だ、そもそもラブホテルなんて安価な部屋は使わない)
  売春婦がよく利用するホテルとして有名ではある。
  
  
  のテリトリーと似たような場所だ。
  確かにそこまでは目と鼻の先だ。
  
  
  
  「何だよ、最後に抱いてくれってか」
  「死ね」
  
  
  
  この辺りでは自立歩行が難しくなり、
  尾形が抱えて歩く事になった。
  元々酷く痩せた女だ。片手でも事足りる。
  
  
  担ぎ上げようかとも思ったが、ほんの僅かな距離とはいえ、
  大通りを突っ切る為にやめた。
  
  
  が自発的に尾形にもたれかかっているように、
  腕を回しまるでそういった二人を装いホテルへ入る。
  
  
  古いホテルは対面式のカウンターで直接、鍵を受け取るタイプだった。
  はカウンターにへばりつく。
  
  
  
  「505」
  「ほぅ、随分趣味が変わったな、」
  「うるさい、早くして。時間がないの、見て分かるでしょう」
  
  
  
  カウンターの中の老人は笑い、鍵を差し出す。
  受け取ったが崩れ落ち、咄嗟に支える。
  から手渡された鍵には、べっとりと血がついていた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  505号室はワンフロアをぶち抜いたスイートルームだった。
  外装のみすぼらしさからは想像もつかないような豪勢な室内に驚く。
  
  
  そうこうしている内に、室内、ベッド横の壁が回転し、
  先程カウンターに座っていた老人が姿を現した。
  
  
  
  「辺見ちゃんにやられた」
  「ほぉ、あいつまだ生きてるのか」
  「血が止まらないの、どうにかして」
  「高いぞ」
  
  
  
  老人はそう言い、を担ぎ上げた。
  年齢の割に元気なじいさんらしい。
  尾形の視線に気づいた老人は、覗くなよと笑いかける。
  
  
  そのまま二人は風呂場へ吸い込まれ、数秒。
  凄まじいの叫び声が聞こえ、ギョッとする。
  
  
  叫び声は暫くの間続いた。
  
  
  
  
  

  先輩尾形別軸続き
  この話を書かないと、月島の続きが書けなかったもので、
  急遽二日連続の更新と相成りました
  いい年してもう恥ずかしいですね！
  この老人はあの人です
  
  
  2017/11/29
  
  NEO HIMEISM