醒めて褪めて、さめて
はすぐにラボへと回収され、一週間の隔離治療が施された。
薬を断っていた期間が長かった為、
妄想などの精神的な症状が濃く出ていたからだ。
同時期に一斉に手入れも入り、今回の騒動は沈静化した。
副作用により死亡した被検体の数は30にも上り、
組織開設以来の大参事となった。
徐々に意識を取り戻すを眺めていれば、
彼女の視線がこちらを追っている事に気づく。
まだ、ちゃんと生きているのかと安堵した。
はベッドに拘束され、投薬を受けていた。
この実験の責任者である土方は、被検体の対処について言及された際、
必要な者だけが残ったはずだと答えた。
結果、選別されたのだと。
この一件により、研究所側と組織側との決裂は決定的になった。
「土方さん」
「おお、門倉か」
「大丈夫ですか」
聴聞会帰りの土方を見かけ、思わず声をかける。
組織が二分裂している事は暗黙の了解であり、
今回の騒動は大きな意味を持つ事になるだろう。
皆がそう思っていた。
笑んだ土方はラボへ門倉を誘い、ICUの前で立ち止まる。
は寝ているのか、目を閉じていた。
「あいつは、お前を気に入ってるな」
「はっ?あ、の事ですか」
「あれを完全に懐柔出来るか」
「はっ?」
「やり方は問わん」
どんな手も使え。
土方はそう言い、ラボの所長を解任される旨を告げた。
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全く身動きが取れず、ここへ連れてこられて
どのくらいの時間が経過したのかも分からないでいる。
頭の中がぐちゃぐちゃに混乱しており、考えが一切纏まらない。
薬が随分効いているのだと思う。
時折僅かばかり意識が戻り目が開く。
24時間体制で監視されているらしく、目前は一面ガラス張りだ。
「…」
土方の隣、門倉がこちらを見ている。
最初は幻かと思い目を閉じた。
二度目は門倉一人であり、目が合った瞬間に手を振って来た。
辛うじて覚えている近しい記憶は、あの車中の姿であり、
無意識に涙が込み上げてきた。
あのまま、殺してくれたらよかったのに。
あのまま、薬を飲まずに死んでいれば、
きっと楽しいだろうと思っていたのに。
門倉。
沢山の仲間が今回死んだはずだ。
乗り遅れた自分には皆の分の苦しみが覆い被さる。
そんな状態で生きていけるのか。
きっと生きてはいけないだろう。
ああ、しかし頭が働かない。
疲れた。
そして又、突然の覚醒。
薄っすらと開いた眼に映る門倉の姿。
心が震える。
どうしてあの時、手を出さなかった。
混乱した頭で、それでも自らの意思で迫ったあの記憶が蘇る。
あの時、確かに求めたはずだ。
それが何かは分からないまでも、身体が無意識に求めた。
この壊れた脳を置き去りにして。
又、急激な眠気に襲われ、否応なしに目を閉じる。
生きる事が只、辛いと思った。
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ようやく訪れた解放の日、門倉はそこにはおらず、
これからの処遇を告げる組織の幹部の話を聞いていた。
いつもいるはずの土方と家永の姿も見えず、
あいつらはどこだと聞けば、追放されたと聞かされる。
これからは我々の監視下に置かれる事になる。
これまでのように好き勝手な真似は出来ないぞ、。
男の言葉は地獄の延長を宣言したようなもので、
頭がずきずきと痛みだす。
長らく続く派閥争いの末、研究所側は負けたのだ。
そのきっかけが自分たちの緩やかな集団自殺にあり、
やはり生き残った者に全ての責任が追わされる。
これまではある程度自由だった行動は須らく制限され、
どこに行くにも組織の送迎が付き、
指令が下れば連れて行かれ、終わると迎えに来る。
迎えの車の中で強制的に薬を投与され、気づけば次の朝だ。
そんな、家畜のような暮らしを余儀なくされ、
精神の均衡はいよいよ危うくなる。
酷く丈夫なこの身体は痛まず、必要な栄養は強制的に与えられる。
もう為す術もなく、言われるがままに暮らしていれば、
奴らは目に見える評価制度を設けた。
問題行動を行わなければ点数が加算され、ランクによって自由度が増す。
仕事の難易度、成功報酬も加算される。
家畜のように暮らすのランクは見る見るうちに上がり、
半年程で人並みの自由を手にする事が出来た。
仕事終わりの投薬は変わらないが、その後は好きに使える。
仲間もおらず、一人になったは酒に逃げた。
組織の人間が立ち寄らない地域のバーに入り浸り、朝まで飲み明かす。
目に見える評価を下すあいつらは、現状に大変満足している。
必死に持ちこたえているが、もう限界だ。
こうして朝まで飲み、そのまま近くのモーテルで眠り任務へ出向く。
表面上は問題がなく、滞りなく任務は完了する。
世間話も忘れず、何らかわりはないのだと演じ続ける。
心と身体の間に深い溝が生まれ、奇妙な既視感さえ感じる。
そんな女が一人飲み潰れていれば、思惑のある男は確実に寄って来る。
まるで記憶にないまでも、手を取り誘いに応えた。
身も心も十二分に消費し、対価の如くすり減らす。
「…隣、いいか」
「…」
「」
もう既に名も知られ、ここも潮時かと思う。
カウンターに突っ伏し、目も開けられないような状態だ。
男の手が背を撫で、こちらはこちらでそういう合図かと判断する。
二本の足で立ち上がろうとするも、既に膝が笑い自立歩行が出来ない。
男にもたれかかり、どうにかバーを出た。
酔いが回っている為に目も開けられず、
男の行く先に連れて行かれるだけ。
夜風はひんやりと冷たく、もうこのまま死んでしまいたいと思う。
聞き慣れた自動ドアの音、記憶に残る匂い。
少しだけ響く足音、軋んだドア。
いつものモーテルだ。
薄っすら目を開けるが室内の照明はついておらず、
ベッドに寝かされたこの身を弄る指は酷く怠惰だ。
性急でなく、求めてもおらず、では何故この男はこちらを抱く。
急に不安になり、両手で男の身体を押す。
乾いた唇が何事かを呟こうとするが、
頭が働かない為、言葉にならない。
全身を這う指先は行く宛もなく、
常に感じる発射への欲求を感じさせない。
困惑したまま感覚だけが研ぎ澄まされ声が出た。
自分でも止められない程、溢れ、混乱する。
男は終始、無言だった。
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ふと目が覚め、酒の残る重い身体を起こした。
カーテンの隙間から日光が射し、暗い室内を刺している。
埃が踊っていた。
相変わらず最悪な状態だ。
ため息を吐きふと隣を見ると、珍しく男がまだいた。
事を済ませると姿を消す男が多い中、珍しい。
珍しいが厄介だ。
覚えてもいない男の顔など見たくもない。
男が起きる前にさっさと部屋を出た方がいい。
珍しく全裸で事に及んだらしく、脱ぎ捨てられた下着を捜す。
「…そっちにはないぜ」
「!」
「俺が持ってる」
何でかは分からんが。
「門倉さん」
反射的に名を呼ぶが、頭がついてきていない。
素っ裸のまま四つん這いで近づき、寝ぼけ眼の門倉に抱き着く。
無意識に涙が零れていた。
先輩尾形別軸続き
過去話Aです(過去話大好きです)
この主はメンヘラですね、、
嫌いじゃないぜ
2017/12/24
NEO HIMEISM
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