何度でもあなたを奪い返しに

• 目が覚めると後ろ手に拘束されたままベッドに転がされていた。
  見知らぬベッドに見知らぬ天井。
  室内は暗く、見渡せども何も見えない。
  
  
  何故こんな状況になっているのかは、まったく理解出来ないわけで、
  身を捩り拘束を解こうともがくが、面白い程まったく微動だにしない。
  こんな拘束は普通の奴には出来ない。嫌な予感がする。
  
  
  そもそも、理由も道理もなく、こんな状況に陥っているのだ。
  嫌な予感くらいして当然だ。
  
  
  もがく内に顔が埋まり、知った香りに遭遇する。
  それと同時に無理矢理に引き出される記憶。
  これは随分と最悪な展開だ。
  どうにか逃げ出したいところだが―――――
  
  
  
  「目が覚めたのね」
  
  
  
  そう呟きながら部屋へ入って来た女が照明をつけた。
  急な光量に思わず目を細める。
  
  
  
  「…」
  「死ぬほど恋しかったわ」
  
  
  
  あんたが。
  
  
  酷く懐かしい顔をした女がそこにいた。
  想像通りの女がそこに。
  
  
  数年の歳月により年を取ったが、それはお互い様だ。
  髪の毛は伸びた、色も変わった。
  随分化粧も濃くなった。
  
  
  目から入る情報が一瞬にして脳内を埋める。
  
  
  
  「何よ、言う事ないの」
  「派手になったな」
  「お陰様で」
  「どういうつもりだ」
  「それ、あんたが言うの」
  「…」
  「嫌だ、黙らないでよ」
  
  
  
  あたしが虐めてるみたいじゃない。
  は口を開きながら室内をゆっくりと歩いている。
  こちらを見ずに。
  今まさに手首を固定しているこの拘束法は特殊なもので、
  一般に浸透していない。特殊部隊専用のやり方だ。
  
  
  
  「…生きてたのか」
  「生憎よね」
  
  
  
  上手く始末できたはずだったのに。
  が初めてこちらを向いた。
  あの頃と違う眼差しで射貫く。
  
  
  未だに深酒した時には思い出す、
  過去のちょっとした古傷が痛むような、そんな感覚だ。
  過去、この女は確かに仲間であり、そうして敵だった。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  とある要人の救出作戦を行った時の事だ。
  情勢が非常に不安定な小国で行われた、
  その作戦の指揮を執ったのが月島であり、
  作戦の性質上、少人数で行う必要があった為、
  信頼出来るメンバーを自身で選抜した。
  
  
  その中にはいた。
  実力もあるし信頼もしていた。
  あの頃も今も、この女は自分を愛している。
  
  
  その頃、丁度組織の人間が姿を消すという事件も起こっていたのだが、
  そもそもがこういう組織だ。
  ミスでもし、命を捨てたのだろうと誰も気に留めてさえいなかった。
  
  
  自分たちが所属する特殊部隊こそ、団体行動を行う場合が多いが、
  他の部隊ともなると単独での任務が主となる。
  自分の命は自分で守らざるを得ない。
  
  
  だからといって誰もがスルーしていたわけでもなく、
  最も死亡率の高かった諜報課は独自に調査を行っていた。
  あの課は基本的に情報の共有をしないし、独断で動く。
  全て事後の報告だ。
  
  
  現地につき、いざ翌日に作戦決行だという際の際。
  と同衾した直後だ。
  
  
  眠りに落ちたを横目に夜風にあたるべく
  宿の外へ出た月島を尾形が捕まえた。
  こんなところで何をしているんだと相当驚いた記憶がある。
  
  
  随分お盛んだな。
  何もかも見透かしたような口ぶりでそう言う。
  何の用だと聞けば、あの女を殺せと告げられる。
  
  
  あの女は某大国の諜報員だ。
  あいつのせいで同胞が何人も死んだ。
  これは上の決定だ。
  今回の作戦で死んだようにみせかけろ。
  失敗は許されない。
  
  
  それだけを告げ又、颯爽と闇に消える。
  心の準備は出来ないまま夜明けを迎え、作戦は決行された。
  
  
  事前の打ち合わせ通り事は進み、
  要人を救出し無事ヘリに乗せ脱出させる。
  第二班の輸送部隊と合流し撤収するまでの約10分。
  当初の予定から急遽変更し、自分と以外は一班に乗せた。
  
  
  二人っきりになりたかったの、だなんて
  甘えた声を出してくるに銃口を向け、中々引き金が引けない。
  第二班が来る前に決着をつけなければならない。
  そうしなければ、の素性が白日の下に―――――
  
  
  何事かをいいかけたの胸元に赤いシミが浮きあがり、
  驚いた彼女の眼差しが捕らえたものを見るべく振り返る。
  
  
  やれやれ、何をてこずっていやがる。
  ライフルを片手に近づく尾形がそこにはおり、
  一切信用されていなかったのだと気づくが今更だ。
  
  
  右手で胸元を抑え倒れ伏すは
  辛うじて息をしているが出血量が多く、助からないだろうと思えた。
  
  
  
  「あの時、あんたと尾形が去って行く後姿を見てたわ」
  「…」
  「ねえ、月島」
  
  
  
  あんた、あたしの事、愛してくれてた？
  今はどう？今も愛してる？
  
  
  そう呟きながらが徐にベッドへ近づき、月島の肌に触れた。
  そのまま腹の上に跨る。
  は髪を左側に寄せ、少しだけ首を傾げた。
  
  
  月島のシャツを握り一気に引き裂く。
  の腹が読めない。
  
  
  
  「…愛してないの？」
  「…」
  「あんな事しといて、愛してないなんて」
  
  
  
  の爪先が皮膚に刺さる。次に指。
  鳩尾の上あたりから緩々と動き、胸、鎖骨、首。
  僅かに顔を背けていた月島の顎まで到達し、強引にこちらを向かせる。
  
  
  肩にかけていたストールを床に落とし、
  ノースリーブのロングドレス、
  それの肩ひもをゆっくりとずらし肩を滑らせる。
  
  
  見知った肌に大きな傷跡が見て取れた。
  彼女にふさわしくないものだ。
  
  
  
  「なによその目、あんたが最後にくれたものじゃない」
  「何が目的だ」
  「あの後、あたしがどんな目にあったかなんて、
  　気にもしなかったでしょう」
  
  
  
  青白い乳房が呼吸と共に揺れる。
  は指先で月島の胸元を弄びながら、口を開く。
  
  
  あの時、流石に死んだと思ったんだけど。
  あんたと尾形の姿を見送ってあたしも意識を失った。
  次に目が覚めた時は組織に回収されてたわ。
  生かされたのよ、責任を取らせる為にね。
  
  
  医療機関に収容されてる間、ずっとあんたの事を考えてたわ。
  この傷、見える？見えるわよね。
  このあたしの胸の真ん中に刻まれたこの傷。
  せめてあんたが付けてくれてりゃあよかったのにって。
  
  
  あたしの処遇は退院してから決定される事になった。
  使えるものは何でも使うってスタンスの組織だからね。
  お飾り程度の裁判をして、使い捨てにする気だって分かってたわ。
  
  
  だから逃げ出した。
  当然よね。あたし程の腕があるんだもの、一人でやっていけるわ。
  命は狙われ続けてるけど、そんなのは今に始まった事じゃないし、
  何も変わらない。そうでしょう。
  あれから一人、あたしはずっと一人でここにいる。
  
  
  延々と話しながらの指は月島の身体を這いまわり、
  酷く優しく振れる。
  時折爪先で傷をつけ撫でまわす。
  
  
  その光景が余りにも異質で、
  そもそもこの状況が余りにも無意味で目が離せない。
  このまま刃物で一撃、なんて可能性当然有りうる―――――
  
  
  
  「っ…！？」
  「興奮してるのね」
  
  
  
  でもそれってどうして？あたしの指先に？
  それとも裸に？それとも―――――
  
  
  あたしの過去に興奮したのかしらと笑う。
  の指先が月島の性器を撫で、もう一度きつく握った。
  
  
  
  「恥知らず」
  「…よせ」
  「まあ、あたしもそうだけどね」
  「おい、！」
  
  
  
  腹から太腿、膝まで下り、ベルトを外す。
  多少ばたつけどもが自身の足で組み伏せ
  すぐに身動きが取れなくなった。
  
  
  ズボンを下ろされボクサーパンツだけになり、
  傍から見ても分かる程度には勃起したそれを指で撫でる。
  
  
  一度ならず、二度、いや、幾度も寝た女だ。
  何故だか一度寝るとハードルがぐんと下がり、それが当然にも思える。
  
  
  
  「ちょっ……やめろ！」
  「どうしてよ」
  
  
  
  窮屈そうにひしゃげていたそれを解放し、舌先で弄ぶ。
  何故。そう問われてももう、
  すっかりとこの思いは歪んでいて道理はない。
  
  
  只、もうこの月島という男を蹂躙したくて、
  只、滅茶苦茶にしてやりたくて心がどうにかなってしまっている。
  憎しみが原動力なのかとも思うが、どうなのだろう。
  恐らく未だこの男を愛している。
  それが問題なのだ。
  
  
  口先だけでやめろというこの男が許せない。
  こんなにも性器を固くしている癖に。
  
  
  舌で嬲り指で刺激を与えれば月島の吐息は容易く熱を帯びる。
  性感帯も覚えている。
  どんどんと固くなる性器と相反し冷えゆく心をどうにも出来ない。
  
  
  
  「…っ！！」
  「もうそろそろイきそうでしょう」
  「…め、」
  「どうする？やめていいの？」
  「お前…！」
  
  
  
  なんてね、嘘。
  
  
  そう言った刹那、月島が低く呻いた。
  押し殺した結果、漏れたような声だ。
  少し遅れて精液が吐き出され、
  の胸や腕、咄嗟に顔を庇った手のひらに纏わりつく。
  
  
  息の荒い月島を見下ろし、
  手のひらに飛んだ精液を見せつける様に舐めとれば、
  男の性器が尚、固さを増した。
  
  
  
  「おい、外せ」
  「…」
  「好きにやらせろ、俺にも」
  
  
  
  何も答えず、只、反射的に口付け軽く舌を噛む。
  そうしながら月島の拘束を解いた。
  
  
  脳髄まで興奮させないと意味がない。
  理性でどうこう出来る状態ではどうしようもない。
  こんなやり方がどうだなんて、そんな話をするつもりもない。
  
  
  月島の腕がを捕らえ、容易く体勢を逆転させる。
  酷く興奮した男が身勝手にこちらを貪る様子を見るのが好きだ。
  この身体が只のもののように思えるし、
  求められているような錯覚にも襲われる。
  最低な気持ちにさせてくれる。
  
  
  月島の手のひらが乳房を掴み、
  もう片方の腕は性急に片足を持ち上げるのだし、
  兎にも角にも早く中に入りたいのだと、そんな欲望が見て取れる。
  
  
  
  「ぁ…」
  
  
  
  相手を労わる言葉なんて当然、存在せず、
  一気に奥まで入り込んだ月島の性器は熱く、思わずのけ反った。
  むき出しになったその喉に月島が噛みつく。
  一瞬だが息が止まり、愛はまだここにあるのではないかと、
  そんな思いが過った。
  
  
  だけど、そんな余計な事を考えられる余裕もそこまでで、
  気配りなど一切見せない月島は思いのまま、こちらの身を貪る。
  息も出来ないくらいだ。
  
  
  こちらは月島を滅茶苦茶にしてやると思っていたが、
  いざこうなると当の月島もこちらを滅茶苦茶にしているわけで、
  こうして身をすり減らせ肌を削れば罪悪感も失せるのだろうか。
  
  
  あの頃とはまるで違う抱き方で身を貪るこの男をこちらは知らない。
  知った顔のまるで知らない男に犯されているようで酷く興奮する。
  このまま激しく抱いて、思考も何も、全て壊して、
  何も考えられなくなるまで喰い尽くせばいい。
  
  
  月島の手がの腰を掴み、無意識に逃げ出していた身体が捕まる。
  まるでステレオから聞こえる音声の様に、
  自身の喘ぎ声さえ発している自覚がない。
  息が出来ているかも分からない、
  もうどこがどう感じているのかも分からない。
  
  
  このまま繋がった性器から溶け出し一つになってしまうような恐怖。
  月島に向かい腕を伸ばしかけるが、都度襲う感覚がそれを良しとしない。
  この指先は月島に届かない。昔も今も。
  
  
  が幾度か達した後、
  もうそういう肉の塊と化した後にようやく発射した月島は、
  肩で息をしながら暫く目を閉じ、ズルリと性器を引き抜いた。
  数秒遅れ、精液が逆流する。
  
  
  垂れる精液を感じながら身体を動かせば、
  月島が服を着ている姿が目に入った。
  
  
  
  「…何よ、すぐに帰るの？」
  「…」
  「随分じゃない」
  
  
  
  ここまでしといて。
  
  
  
  「…お前が生きていて、嬉しいよ」
  「！」
  
  
  
  だからどうだとか、これは何だった、だとか。
  そんな事は何一つ言わず月島はそのまま部屋を出て行く。
  
  
  思いもしなかった言葉に反応さえ出来なかったは、
  出て行く男を引き留める事も、それを追う事も出来ず
  只、酷く疲れた身体を持て余していた。
  
  
  
  
  
  
  

  あけましておめでとうございます
  今年も宜しくお願い致します
  2018年一発目はこの話です
  特務機関系の番外編です
  月島を犯すような話にしようと思い書きました
  正月とかもう関係ねえー！
  途中で攻守交替は割と好きなパターンです
  こう考えると月島は色んな女とやっていてビビりました
  一番多いんじゃない？数的に・・・
  
  
  2018/01/05
  
  NEO HIMEISM