枯れた花を花瓶で愛でて

• 組織から逃げ出し、もうじき一年が経つ。
  裏切り者を決して許さない組織だ。
  
  
  故に逃げ出しすぐに地下へ潜った。
  各国の機関にスパイを送り込む彼の組織は
  (要はもやっていたようにだ)至る所に内通者を蔓延らせている。
  
  
  まずはそいつらの目を欺かねばならず、
  まるで死人のような半年間を薄暗い場所で過ごした。
  
  
  場末の、それこそ組織の人間も立ち入らないようなスラム街で
  身を売りどうにか生き永らえる。
  世の全てを羨みそれでも這い上がる事の出来ない哀れな人間どもの巣窟だ。
  常に伝染病が流行っており、性感染症のリスクも高い。
  闇医者から手に入れる抗生物質と避妊薬、
  それとコンドームを駆使しどうにか感染のリスクだけは死守した。
  
  
  この身体はもう好きにくれてやると心に決め、
  そんな廃棄同然の生き方を選んだのだ。
  
  
  あのまま組織にいたところで先は見えている。
  身体が全快した後に開かれる予定だった裁判で確実に実刑判決が下され、
  責任を取る事になったはずで、それが何を意味するかといえば、
  この身の破滅と同義だ。
  
  
  危険地帯に飛ばされるか、慰安婦のような状態に陥る事になるのか。
  考えうる限り最も最悪な展開がそこには待ち構えており、
  同じような慰み者の状態に陥っていたとしても、
  まだ自由があるだけこちらの方がマシだと思えた。
  
  
  半年が過ぎ、八ヵ月、十ヶ月と時間は刻一刻と過ぎてゆく。
  一年が経過した暁にはまた浮上し、新たに生き直すと決めていた。
  
  
  現役時代に各所へばらけさせていた金を、
  足がつかないよう架空の企業を通し、引き出す。
  ある程度の現金を手に、路地裏に部屋を借りた。
  
  
  一階がバーで、二階がそれ用の連れ込み部屋になっている
  極めて如何わしい場所の三階ワンフロア。
  以外に無論借り手などおらず、破格の金額で入る事が出来た。
  
  
  地域柄、出自などを気にする輩もおらず、
  金払いさえ良ければ何の問題も起きない。
  
  
  何はともあれ、これから先もどうにか生きていかなければならないのだ。
  自分に出来る事といえば限られている。
  ここを拠点として、フリーランスの始末屋でもやりながら
  生きていく他ない。
  
  
  諜報員時代に親しくしていた如何わしい輩と顔を合わせ、
  仕事を流してもらう日々だ。
  
  
  時折、お前の事を捜している奴がいたぜ、
  なんて只ならぬ情報を頂戴する事もあり、
  未だ存在が忘れられていない事を知る。
  
  
  そんなある日の事だ。
  いつも通り仕事を終え、夜半過ぎに戻って来たは、
  自室で尾形と遭遇する事になる。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  鍵を開け、自室に入り鍵を閉める。
  そのまま室内灯を点ければそこに尾形がおり、息が止まる。
  
  
  あの時、こちらの胸を撃ち抜いた男だ。
  離れた場所から一発で仕留めた。
  月島との間をすり抜け全てをぶち壊した男がそこにいる。
  
  
  そもそも、何故この気配に気づけなかった。
  相手は諜報部隊の人間だが、こちらも同等の畑出身だ。
  
  
  明かりをつけ、尾形と目が合い二秒。
  銃に手をかけるが、待ち構えていた男の方が当然早く、
  銃口から只、逃げ出す形となった。
  そう広くない室内でだ。
  
  
  当然、攻める側が圧倒的に有利であり、
  銃口を向けたままの尾形は遠慮もなしに近づき、の額に近づける。
  
  
  ここぞという時には必ずこの男が邪魔をする。
  あの時だって、あれは幸せだと呼べる状態ではなかったか。
  月島と共に、愛や恋のような、例えそれが模造品でも、
  偽りだったとしても、そういうものの渦中にいたはずだ。
  それをこの男が―――――
  
  
  尾形は相変わらずの無表情でこちらを見ている。
  決死の覚悟で飛びかかろうとしたが、銃身で強かに殴りつけられ昏倒した。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  気づけばそこは自室であり、
  強かに殴られた右の前頭部がズキズキと痛んでいた。
  視界が汚れているところを見るに、多少の出血が見られるのだろう。
  
  
  身体の自由が利かず、未だ半覚醒状態で視線を落とせば、
  椅子に身体ごと縛り付けられていた。
  この状態は嫌な事を散々と思い出させる。
  
  
  無駄だと分かってはいるが身を捩る。
  より一層縄が食い込む、嫌な縛り方だった。
  
  
  
  「気づいたか」
  「尾形…」
  「お前、逃げ出したらしいな」
  「何の用なの」
  「そう睨むなよ」
  
  
  
  悪い話じゃないぜ。
  
  
  
  「あんた、あたしにした事、忘れたっての」
  「何が」
  「あたしを撃ち抜いたでしょう」
  「お前だって俺達の仲間を殺しただろ」
  
  
  
  俺だって月島だって、いつ死んでもおかしくなかったんだぜ。
  それは仕事だって言うんなら、俺だってそうだ。
  お前に弁解する資格なんかないんだよ。
  
  
  尾形がつらつらと言葉を並べ、こちらへ近づく。
  この男はこんなに雄弁だったっけ。
  
  
  
  「今更何よ、断罪でもしようっての」
  「お前、俺の駒になれよ」
  「…何？」
  「どうせどこにも行き場なんかないんだろ、俺が使ってやるよ」
  「ふざけ」
  「そう言うと思ったよ」
  「！」
  
  
  
  そんな事は分かっていたのだと尾形は言う。
  
  
  俺の申し出をお前が簡単に却下するだろうと踏んでたんだぜ、俺は。
  だから縛った。想像つくだろう、これから自分が何をされるかなんて。
  そういう世界で育ってきたお前だったら容易いはずだぜ。
  
  
  の正面、丁度テーブルに腰かけ、
  こちらを見下ろしていた尾形はそう言い笑う。
  
  
  
  「尾形…」
  「構わんだろう、つい先日まで身体を売ってたお前だ」
  「…あんた、いつから」
  「忘れたのか、お前」
  
  
  
  俺は諜報部隊だぜ。
  
  
  こちらの心が動揺すればする程、尾形はどうやら饒舌になるらしい。
  知られたくない地獄の日々を臭わされ、
  確かに顔色の変わったを見るなりテーブルから降り近づく。
  
  
  月島の隣で威厳を振るっていたお前が、
  あんな場末の娼館で世捨て人相手に身を売るなんてな。
  俺は見てたよ、そんなお前が哀れでね。
  
  
  尾形がの周りをゆっくりと歩く。
  左肩に手を置いた。
  反射的に身体がビクつき、それを見て又、笑う。
  
  
  
  「堕ちていく女ってのは、いいもんだぜ、」
  
  
  
  耳側で囁く。
  
  
  
  「やけに興奮するんでな」
  
  
  
  あいつにも見せてやりたいくらいだと続け、
  丁度縄で挟み突出した乳房を掴んだ。
  
  
  咄嗟の事に身を屈めようとするが、拘束がそれを許さない。
  暴れるとその分、縄が食い込み思わず悲鳴が漏れる。
  
  
  
  「時間はあるんだ、じっくり楽しませて貰うとしよう」
  「やめ」
  「何れ、お前は俺に懇願するよ、」
  「…！」
  
  
  
  心の中を土足で踏み荒らす尾形の言葉は感情の波を逆撫でする。
  一番触れられたくない箇所を的確に突き、穏やかでいられない。
  
  
  あの時、月島がこちらに銃口を向けた瞬間から二人の時は止まり、
  只、心の中で身勝手に育った。
  
  
  最早愛しているとは言えず、それでも思い出には縋る。
  あの、確かにあった愛の日々を糧にする。
  それさえも知った上で蹂躙する尾形が許せない。
  
  
  やめて、触らないで。嫌なのよ、本当に嫌、やめて。
  
  
  剥き出しになった乳房を確かめるように触る尾形には当然届かない。
  髪を掴み顔を上げさせ、背後からじっくりと撫でまわす。
  執拗にも顔を覗き込みながらだ。
  
  
  指先は乳房を無尽に動き回るが微力な感覚しか与えず、
  恐らくそれもわざとなのだろうと頭では分かっている。
  こちらの反応を伺っているのだ。
  
  
  多少の感覚にビクつくこの身を眺め嘲笑う。
  頬から耳朶、首筋までをべロリと舐め、
  一番反応の大きかった首筋に噛みつけばが声を上げた。
  
  
  この身は呆れる程、無力で、尾形の為すがままだ。
  決して乳首に触れず、微力な感覚を与え続ける指先、
  別方向からの感覚を与えるべく首筋を食む唇。
  辛うじて残る理性。
  全方向に弾け飛びそうな感情が涙腺を通り涙となる。
  思考を全て尾形に奪われた。
  
  
  唇から零れる音も、それが喘ぎ声なのか、泣き声なのか分からない。
  こんな、こんな望まれない生き方まで落ちぶれ、何を希望とする。
  
  
  様子を見計らったように、尾形が指先をに咥えさせた。
  舌先で十二分に舐めさせ唾液を絡ませる。
  そのまま唇、顎、喉を滑らせた。
  の喉が唾を飲み込む。
  心臓は既に酷く高鳴り、その音さえも尾形に聞こえそうだ。
  
  
  
  「商売女にしてはキレイな身体をしてるが…」
  「…っ、ぅ」
  「これはあの時の傷か？」
  
  
  
  胸の真ん中にあるケロイド状の傷を撫でる。
  
  
  
  「傷物にして悪かったな、謝るよ」
  「ぅう、やめ」
  
  
  
  触らないで。あたしに触らないで。
  唾液のついた指先がようやく固く尖った乳首に触れ、
  が一際大きい声を上げる。
  
  
  こうなる事は分かっていた感触で、
  もうここまで来ると、それなしではいられない。
  どうでもよくなる。
  声を抑える事も出来ないし、感じる事を止める事だって当然出来ない。
  
  
  別にこれで感じる事を恥もしないが、
  尾形に犯されている事実だけが許せない。
  同じ事を誰がしても似たような状況になるはずだ。
  そう言い訳をする。
  
  
  心の中で自身をどうにか納得させる。
  そうでもしなければ、余りにも辛すぎる―――――
  
  
  
  「ぁ、あ、っ…！」
  「ほら、口開けろ」
  「…！」
  
  
  
  きつく起立した尾形の性器が押し込められ、
  惰性で舌を動かせば尾形が頭を掴み、喉の奥まで突き入れる。
  咽返りそうになるがどうにか堪え耐える。
  好き勝手に動かし終え、引き抜けばが大きく咳き込んだ。
  
  
  
  「…で、どうする、」
  「…何」
  「お前は俺に懇願するはずなんだが―――――」
  
  
  
  涙も枯れ果て、もう守るべきものもない。
  尾形の望む言葉を口に出せば、男が声を上げて笑った。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  それから先はお決まりのパターンで、
  椅子から解放されたの身体を机に乗せ、散々貪り精を吐き出す。
  非常に用心深い尾形は、最後まで縄を解かなかった。
  
  
  全てが終わり、放心状態で天井を見上げるの隣、
  ベルトを締める尾形がいる。
  
  
  お前が組織にいた頃から一度やりたいと思っていたが、
  いい機会だったぜと嘲笑う。
  
  
  それが本心かどうかは重要ではなく、この現実が全てだ。
  ようやく手に入れた終の棲家は散々と蹂躙され、もう跡形もない。
  
  
  この尾形から逃げるのも、どうやら暫くは無理そうだ。
  この男は四方に手を打っている。
  そうでないと、あの地の底で身を売るなど
  見つけられたわけがないのだ。
  
  
  元の組織に発見され囚われるよりマシだろうか。
  そう思えども、ちっとも心は楽にならず、身体を動かす気にもならない。
  
  
  風邪ひくぜと笑った尾形は、又、顔を出すと告げ部屋を出て行く。
  こんなはずじゃなかったのにな。
  ぐったりと疲れたまま腕を伸ばせば、
  縄の後が色濃く残っており、
  つい先刻までの熱情を否応なしに思い出させる。
  
  
  それが余りにも遣り切れずに一人、泣いた。
  
  
  
  
  
  
  

  前回更新分、【何度でもあなたを奪い返しに】
  の前夜話というか、前話です
  これがあってからの、あの話という
  尾形の性癖がアレなんですけど
  私の性癖は至ってノーマルです
  この主人公は当サイト内でも割と可哀想レベル高い
  続くかどうかは分かりません
  
  
  2018/01/09
  
  NEO HIMEISM