泥濘に咲く花

後悔をしているという事になるのだろう。 未だかつてどんな時にでも後悔だけはした例がなかったが、 これは後悔と呼べるものだ。 まず息が苦しくなる、この場から逃げ出せば楽になるのかと 思い一旦は逃げ出したものの場所を変えても同じと知る。 一体何故、どうして。何のせいで。 それが分からず耐えず苦しんだ結果 この苦しみの元はエースだと知った。 あの男は知っていたようで、 それでも苦しんでいる様子なのだから、エースも後悔をしているのだ。 どうしてこの男にだけ、がそう思っているのだから エースも同じように思っているはずだ。どうしてお前にだけ。 こんなに寂れた港町で出会った事実がよくなかったのか、 それともがよくなかったのか、エースがよくなかったのか。 気づかないように、思い出さないようにもエースも よく酒を飲む。浴びるほどに、溺れるほどに。 距離ばかりを無理矢理に離してしまえば忘れてしまうとばかりに。 関係を後悔しているからだ。 だからどうにかリセット出来る方法を模索する。 頭の悪い方法だと分かっていてもだ。他にどうする事も出来ない。 互いが現実に縛られ、それでも心が勝手に動きかねないから まず心を殺す事にしたというのに。それでも何故心は死なない。

「…隣、いいかい」
「ダメよ」
「今日は祈り日だ、誰も来やしねぇ」
「罰当たりね」

あんたもあたしも。 はそう呟きグラスの中身を一気に煽った。 祈り日にでさえ酒に溺れるのだ。 口の中の感覚はとっくに麻痺してしまい味はしない。

「なァ、。俺らはとっくに後悔してる」
「そうね」
「だからこの一杯だ。この一杯で全部忘れちまおう」

空のグラスに琥珀色の液体がなみなみと注がれ、 まだ溶けていない氷が音をたてた。 エースが指先でそれを混ぜる。

「忘れる、ねぇ」
「全部、ぜーんぶだ」

グラスに指先をかけエースと視線を交わす。 示し合わせたように乾杯をし一気に飲み干した。 目頭がかっと熱くなったのは何も泣きたいからじゃあないだろう。 こんな港町、とっくに忘れてるさ。 熱とアルコールに汚されたまま視線を逸らす事さえ忘れ 又いつものように腕の中に納まる。 よくない遊びをしかけてくるこの男は祈り日にさえ酒を煽るロクデナシで、 まったく違わない自分もとんだアバズレだと知っていた。それも互いに。 誰もいない酒場で盛り合い感覚も鈍いまま声を漏らせば 後悔も現実も何もかも全てを失くしてしまったような、そんな気がした。


2008/12/10(エースガンバレのページのはずが…!) 模倣坂心中