この愛は万死に値す

まるで氷のように冷たいエースの指先を弄びながら 裸に近い格好でベッドの上にいるというのに、この男は一体何を見ているのか。 スプリングの死んだ安いモーテルのベッドは湿っており、 まあそれが湿気のせいなのか汗のせいなのかは分からない。

「あんた、凄い気分屋よね」
「そうか?」
「そうよ、気分の上下が激しすぎるもの」
「そうかも知れねェな」

まったくこちらを見ずにエースはそう言うし、 それでも口を開くだけマシなのかも知れない。

「もう止した方がいいのかも知れねェぜ」
「何?又?」
「ああ、何度だって言うぜ」
「聞き飽きた」

あんたがあたしを捨てるって話は聞き飽きたわ。 もエースも同じ事を何度だって言う。繰り返す。 結局の所、落ち着く場所は分かっているのだ。 こんな状態を続ける事は出来ない、何れ終わる。何の関係もなくなる。

「どうしてそんなに刹那的なのよ」
「そんな事はねェよ」
「あんたみたいに命を粗末にする男、いないわよ」
「俺達はみんなそうだ」
「…そうね」
「そんなもんより大事なものがあるだろう」

思いを殺してしまえばいいのだ。 執着が出ないように。 結局は愛情なんて執着の言い方をよくしたもので、 エースを手放せばいいのだ。 だけれど、それが出来ないでいる。怖くて。

「見てみろよ

もうお前を笑わせる事も出来なくなっちまってる。俺は。 笑い声の絶えたこの部屋は酷く冷たい。 湿度ばかりが増し冷えゆく。 それなのに必死に、死なないように暖め合う為に身を寄せた。


2009/4/10(暗い)
模倣坂心中