梟木の下

なあ、海賊って知ってるか。悪い奴らさ、そりゃあ、お前が思ってる以上に。 何?そこら中に掃いて捨てる程いるって?まあ、こんな時代さ、どいつもこいつも焦がれちまう。 俺が何者だって?そんなこたァどうだっていいじゃねぇか、単なるゴロツキさ。 悪いヤツかどうかなんて、どいつの物差しで計るつもりなんだよ。 確かこの辺りにゃ海軍のお偉いさんの別荘があったはずだろ、今日はそこで盛大なパーティがあるんだってな。 あんたもそれだけめかし込んでんだ、行くんだろう?どうしてこんなトコにいるんだよ。
最悪と声は出さずとも口の動きで読み取れた。わざとらしく近づけば露骨に顔をしかめる。 毎度の仕草で、それを見たいが為にエースはを付回しているようなものなのだ。 彼女の糧は金持ちの男をたぶらかす事であり、口先三寸で全てを賄う。振りをしている。だから付け狙う。 上記の言葉を早口でまくし立てながら近づけばの仕事は滞り、がエースの相手をする暇が出来るというわけだ。

「あんた…毎度毎度、何のつもりよ」
「お前に会いに来たんじゃねぇか」
「本当、ここまで邪魔するんなら金出してくんない?いい迷惑だわ」

オフのは露骨に変わる。目つきから歩みまで変わる。どちらがいいとは言えない。 余りに変わりすぎるから比べようがないのだ。妙に畏まり、大人しいよりは気を使わないでいい分、 後者の方がいいのかも知れない。まあ、エースに後者を見せる事はない為、どちらでもいい。

「そろそろ差し障りが出て来たんじゃねぇか?」
「何の話よ」
「もうそろそろだと思うんだけどねぇ、俺は」

素知らぬ振りもいつまで通用するのだろう。確かにここ最近、商売相手と寝る時に不備を感じる。 これまで何をしてもびくともしなかった心が揺れる。それこそ、ここ最近ではエースの姿が見えないのかとさえ―――――

「邪魔なのよ、あんたって、本当に」

よからぬ思いを振り切るように吐き出し踵を返す。 今の顔を見せるわけにはいかず、だからといって腕を掴むエースを振り払う事は出来ないようだ。


2009/8/9(お久です。エースの過去①、みたいな)
模倣坂心中