じゃまな涙
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今夜雨が降る
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この広い世界だ。途方もない力を持ったヤツもいるわけで、故にマルコは酷く落ち着かないでいる。
今日辺りが姿を見せる。
毎度、不定期に姿を見せるあの女が恐らく今日、親父に会いに来る―――――非常にまずいタイミングで、だ。
能力的に見ればマルコ自身でさえも痛み分け程度にしかもっていけないあの女を何故、
白ひげが仲間にしないかと言えば理由は明白。『危うい』から。
己の持った力をコントロール出来る精神力が欠けている。
どうやら自身もその事には気づいているらしく、仲間を作らずフラフラと放浪している。
あの『危うい』女は精神の状態が常に不安定であり、性質の悪い事にその安定を身体で満たそうとする。
決して満たされはしないのに、だ。只々、消費させ満たされると思い違え、それでも満たされないものだから求める。
そんな間抜けの道楽に付き合わされるのは御免だ。傷ばかりが残るから。船の後方が騒がしくなりマルコは腰を上げた。
相変わらずのは気だるく登場した。他のクルー達に揺ら揺らと挨拶をしながらこちらへ向かって来る。
青白い肌、クルクルと長く伸びた黒い髪。今しがたまでどこぞの盛り場で商売でもしてきたのかと思わざるを得ない佇まい。
なあ、お前。それは下着じゃねぇのかい。それでも誰一人手は出さない。
あの女の事を少しでも知っている輩は決して手を出さない。
底の見えない井戸のように深い眼差しで前方を見据えたは何故海の上にいるのだろう。
「お久しぶり、マルコ」
「相変わらずだな、」
「ねえ、エースは戻って来たの?」
「…いいや」
聞かれると思っていた事を聞かれ少しだけ動揺する。
はまだエースが海軍に捕まった事を知らない。
どんな生き方をしていれば知らないでいられるのかを逆に聞きたい程だ。
エースが捕まったと知り、すぐに思った。この事をが知ればどうなるのかと。
白ひげは黙っていろと言った。マルコもそれが一番の得策だと思った。
揺れる肌蹴た胸元を一瞥しながら白ひげの元へ向かうを見送る。
やれやれ、まったく厄介な女に好かれたものだと思いながら、それはサッチも同じだったと―――――
「クソっ」
胸糞の悪くなるような思いだ。
あの女がエースに対し興味を持った瞬間からマルコの胸の中に渦巻いたこの思いは依然治まりを見せず、日に日に大きくなる。
何を糧にして。いや、糧が何かは知っている。只、認めたくないだけだ。ずっと。
久方振りに顔を見せれば眉間に深い皺を寄せた白ひげは大袈裟な溜息を吐き出す。
可愛い可愛い俺の娘が何とまあ。そう言われ笑う。体調は相変わらず芳しくないようだった。
口には出さずとも恐らく白ひげには全て知れているようで、だからなのかそれ以上の事は言わない。
サッチが死んだあの日からまず住処を失くした。
それよりも先に感情が欠落し、それこそこの白ひげにも多大なる迷惑をかけてしまったのだ。
だから、あれ程頻繁に通っていたこの船にも極力姿を見せないようにした。
表向きは。正直、自分が何をどうしたがっているのかが未だに理解っていないのだ。
そして、それも白ひげには知られている。だから皆こぞって自分に告げないのだと、それも知っていた。
先ほどのマルコだってそうだ。あの眼差し、嘘を吐けない男の癖に。だから今日はその嘘を破棄しに来た。
「ねえ、エースは」
「…なぁ、」
手前は知ってるんじゃあねぇのか。諭すように呟く白ひげの言葉。
彼の背後に聳える太陽が一回りほど大きくなったように思え目を閉じる。
サッチが死に、錯乱し、誰にも会いたくはなく逃げる。逃げた。
下手に名が知れていた分、外の世界は生きにくく、それでも逃げたかったわけだ。
安い酒場に身を費やし何となく知らない男と知り合い、幾度目かの天井を見上げた時に気づいた。
こんな終わり方は到底納得出来ないという事に。だって、最後の日。
サッチは何と言った?強い吐き気がを遅い、思わず跪けば白ひげの声がマルコを呼んでいる。
そう。あの時も白ひげは言っていた。落ち着くまでここにいればいいじゃあねぇか。お前も大事な俺の娘だ。
でも、もう無理なのだ。ここでは何も感じる事が出来ない。それこそ、憎しみさえも。
マルコの腕がを抱え、もう自分の足で立たなくてもいい、そんな状態になっても余計息は苦しいままで、
閉じた目を開ける事さえ出来ないでいた。
2009/11/19(やってみたかったんです。続きます。)
模倣坂心中
/pict by水没少女 |
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