じゃまな汗
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狭い部屋
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目を開ければ見知った室内が映り一層気が滅入った。
まだ見知らぬ男と寝た後に目にしていた知らない室内の方がマシだ。
既に知っていた事実を改めて聞き、そうして気でも失ったのだろう。
立ち上がる気力さえもなく、
ぼんやりとベッドに座っていればドアが開きマルコが姿を現した。
相変わらずの、面倒臭ぇといった眼差しと共にだ。
「何回、手前を担がなきゃなんねぇんだよぃ」
「笑えるわね」
「笑えねぇよぃ」
マルコはそう言い、ホットミルクを差し出す。
飲む気はまったくなかったが一応受け取った。
ホットミルクに砂糖。そういえばよく飲んだ。
笑えないと呟いたきり黙ったマルコは所在無さ気に歩き回り、そうして背を向ける。
いけない、これはよくない癖だ。頭では分かっているのにどうして我慢出来ない。
いけない―――――待ってよマルコ。口を突く言葉。
マルコが立ち止まる。振り返らない。
自分可愛さに何をしているのかが分からなくなるのだ。
酷くずるいやり方だと知っていて、それでも。
「一人にしないで」
「お前…」
「マルコ」
この男が自分を女として見ていると知っていた。
何もかも全てを自分の手で台無しにしなければ気がすまないのだろうか、
最低なやり方だとは知っていても。
ゆっくりと振り返ったマルコは酷く不機嫌そうに眼差しを尖らせている。
そんなもの、幾らでも受け止め流し落としてやる。だからお願い、こっちに来て。
「最低な女だよぃ、お前は」
「知ってるわ」
「出来るなら」
ぶっ殺してやりてぇよぃ。
マルコの声は震えていただろうか。分からない。
そのままドアを強く閉め出て行ったマルコを見ながら、
取り返しのつかない事をしてしまったのだろうかと思い、
それでもこの天井を一人で見つめるくらいならば、そう思う。
要らない思い出ばかりが蘇るのならば全てを台無しにしてやる。
身体を重ね何か足りないものを補おうとするのはきっと病気なのだ。
しかし抗えない。弱いから。
サッチが死んでからというもの一人で眠る事が出来ず、男か酒か薬か。
何れかと共に夜を迎えている。
その全てがないというのに眠れる道理もなく、
だからといって立ち上がる気力もない以上、まるで地獄のようだと思っていた。
の元を離れたマルコは怒りが収まらないでいた。
あの女が呟いた言葉、それよりもあの女がこちらに矛先を向けてきた事実。
消費のサイクルに入れる事が出来ると踏まれた事実が何より許せなかった。
情けない。
あの女はどこまで堕ちるつもりなのかと、それならば過去さえ消してくれと願う。
お前を庇う動力を全て失くしてしまえよバカヤロウ。
が初めてこの船に来た時の事さえ覚えている。
元々、どうやら親父の知り合いだったようで(まったく何て顔の広い人だ)
ちょくちょく顔を見せていたまだあどけない横顔、
自身の力を量り切れず戸惑いを隠せなかった彼女のあの泣きそうな顔。
サッチとマルコ、その二人の間で笑っていた彼女の顔。全て、全てだ。
今になり全てが要らなくなる。こんなものがあるから先へ進めないのだ。
サッチが死んだ翌日、何も知らないは顔を出した。
何も言えなかったマルコを察し、先に近づいたのはエースだった。
の顔が見えないよう背を向け、海原を見つめる。
悲鳴にも似た声が船内に響き渡り息を飲んだ。サッチ。
の叫び声は名を呼んでいたのか。
堪らなくなり振り返ればエースがしっかりと彼女を抱き締めており、その先は何だ。
ああ、そうだ。俺は逃げ出したんだった。姿を目の当たりにしたくなくて。
心を殺しが元に戻る事を望んではいたものの、
元から『危う』かった彼女は道を大きく踏み外しマルコは戸惑ったまま立ち止まった。
エースはエースで黒ひげを捜しに船を離れる。悪い予感はしていた。
とエースが懇ろになったと知ったのは自己申告からだった。
フラリと姿を見せたは酷く荒んでいたがそこに触れる事は出来ず、
あの泣き崩れ様からは想像も出来ない程普通で逆に戸惑う。
サッチの話には一切触れなかった。
その日の晩、飲み明かした際、いつもの様に酔い潰れたはマルコに絡み告げた。
あたしエースと寝たの。他の誰にも聞こえないような声で、マルコの耳側で低く囁く。
視線だけを寄越せばが見上げる。酒の味も分からなくなった。
あの女に弱った所を見せ付けられ尚迫られれば確かに断る事が出来ないのかも知れない。
事情を知っていれば尚更。
しかし、それ以来は荒れに荒れ、
余り姿を見せる事もなくなった為、全て忘れようとしていた。
2009/11/25(とんだ悪女だよ。続きます。)
模倣坂心中
/pict by水没少女 |
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