絡繰り人形の絲

何か言いたい事でもあるんなら言いなさいよ。 はそう言うが、言いたい事があるのはお前の方だろうと思うわけだ。 なあ、お前の背にある刺青はどこの男のものだい、。 そう聞けどもあんたには関係ないと笑うだけの女の癖に。 力ずくで手に入れようとしても逃げるし、優しく手を回そうとしても相手にしない。 だから追いかけるのだと知っていた。 まるで鞭を自在に使うこの女を初めて目にしたのは新世界に入ってすぐの事だ。 あんたルーキーなの。こんな所によく来たわね。何をしに来たの。 じっとこちらを見据え矢継ぎ早にそう聞く女はエースが言葉を選んでいる間に姿を消した。 後から話を聞けば(悪趣味ではあるが)彼女の悪い遊びに参加させられるところだったらしい。 の質問に何かしら言葉を返せば悪い遊びは発動される。 命まではとりはしないものの、要はルーキーいじめのようなものだ。

「なぁ、。俺と遊ぼうぜ、あんたのルールで」
「あんた以外にも遊び相手はいるのよ、エース」
「いいじゃねぇか、愉しいぜ」

指先がチリチリと焼けていく。遊びたくて堪らないのだ。お前の全てを見せてくれ。 女だとか男だとか、そういった括りはもういいのだ。 俺とお前、どっちが強いかだ。それだけでいい。 目だけでエースを見たは数分そのままで、そうして立ち上がる。 少しだけ膨れた唇に視線を奪われていた。


「…俺は負けたのか」
「勝ち負けじゃあないのよ」
「けど、天を仰いじまった」
「見てご覧、あの星」

今にも堕ちてきそうね。大の字になり天を仰いだまま身動きも取らない。 はそんなエースの隣で肩膝をたて座っている。 身を起しているだけ彼女の方が勝っていたのだろう。 ぼんやりと考えるが、まあ彼女が勝敗は関係がないと言うのだ。だからきっと、負けてはいない。

「なぁ、何で悪い遊びって言うんだ?」
「みんな、そう言うからよ。理由は分かんないわ」
「みんな、みんな…ねぇ…」
「生かしてあげたんだから、あんたも生き急ぐの止めなさいよ」
「嫌だね」

徐に起き上がったエースはの腕を掴み彼女を押し倒す。 驚きもしない反応には少しだけ不満だったがまあ、いいとしよう。 俺も海賊、あんたも海賊。どっちがズルイかはまだ分からないけれど。

「悪い遊びって呼ばれる理由、教えてやろうか」
「聞いてあげてもいいわよ」
「あんたを忘れられなくなるんだよ」

一回でも遊んじまうと。だから今度は俺の遊びだ。エースが言う。 俺の悪い遊びだよ、。それでも彼女は少しだけ笑んだまま、こんな他愛もない狡ささえ飲み込む。


2009/12/06(白ひげ以前のエース)
模倣坂心中