また明日を待ってる

人魚的相似性

生きていいのかと呟いた男を目の当たりにして、死にたくない理由がないのかと思った。 それは少しだけ自分と似ていると思い、それでも深さはこの男の方が遥かに上回っている。 どうしていいのか分からない、それが妥当な判断だろう。 だからエースは自分と寝るのだと、それも知っていた。 ちっとも心を見せない男だと思いながら、少しだけ探りを入れてみたものの、これはちょっと手に余る。 自身のキャパを考えない行動だった。

「みんな、知らないわよ。生きていいのかなんて」
「そうかい」
「この世に生を受けた理由を知ってる人なんて、そういないわ」

だって詰まらないでしょう。はそう言いエースにグラスを渡す。 少し気を許せば眼差しの尖るエースは笑む事なくグラスを受け取り、不服そうな顔をした。 彼の求めるような答えではなかったのだろうし、そもそも納得出来る理由は存在しないはずだ。 全て、エースが否定する。分かっている。

「けど、生きてるって事は死にたくないのよね。あたしも、あんたも」
「…」
「死なない理由を見つける為にあんたはあたしとヤるのよ」

気持ちよさを理由にして明日を迎える為に。愛だとか恋だとか、そんなものが理由にならないと知っていた。 互いを理由としたいのに、それを出来ない心が邪魔だと知っていた。

「そりゃあ、いい」
「…」
「それなら、お前と毎日ヤれるって事だろう」
「どうして」
「お前も死なない理由を捜してる」

愛する理由をそんなものに縋らなければならないのか。 彼をここまで歪めてしまった過去も自身をここまで歪めてしまった過去も下らない。 人、一人愛するのに理由付けをしなければならないなんて。まったくもって下らない。全てが。

「こうやって身体を消費していけばいいのよ、あたしもあんたも」
「なぁ、。お前は俺を憐れみもしねぇ」
「あんたもあたしを憐れまないでしょう」
「生きてるのか死んでるのか、分かんねぇな。本当に」

ようやくエースが微かに笑み、これでは救われる。一瞬でも。 泡になり消えてもいいがその前に一言、彼自身忘れている言葉を吐き出さなければならない。 ゆっくりと立ち上がりエースの腹の上に座り込み一言。

「HAPPY BIRTHDAY」


2010/1/3(まさかの誕生夢。暗いのに。しかも遅れているという)
模倣坂心中