愛されたいの まだ

お望みの結末

身体だけよこせばそれだけで十分だなんて、あんた本当によく言うわね。 呆れたようにはそう言い、それっぽっちじゃあ全然満足出来ない癖にと続けた。 久々の辛らつな言葉に少しの間だけ酔い、懐かしさなんてものを思い出しているのだから、 恐らくこれは末期なのだ。苛めんなよ。そう呟き図々しくも腕を伸ばす。 以前よりも強くなったと感じるのは、剣の強い眼差しのせいだ。 しかし、その強さが自分のせいだとも知っているから、口には出さない。 出会った頃には普通の女だったが、こうも逞しくなった理由は自分にある。 散々な目にあわせたし、枯れるほど涙も流させた。 浮気の回数も数え切れず、挙句エースはそれを隠さない。 身体だけだから、別に気にする事もねぇじゃねぇか。 毎度そう言いながらも、まったく道理は通っていないと分かっていた。 それでも、が他の男と話をする事から許せず、遊ぶだなんて言語道断。 相談だなんて名目で他の男と会われた日には探し当て、連れ帰り、まあ、その、何だ。 好きなようにした。

「久々に顔を合わせたって言うのに、どうしてそんなに泣きそうな顔をしてるのよ」
「お前、言ってたじゃねぇか。なぁ」
「何を」
「信じあうとか何か、そういった事。俺とお前が信じあってないだとか、ほら」
「どうして混乱してるのよ、あんた。そもそも今の今まで自分が何をしてたか分かってるわけ?酒飲んで、暴れて。あんな最悪な別れ方したあたしを口説いて!!その前にはあたしの知り合いに詰め寄られてて!!」
「あの男、お前の何だよ」
「…!!」

詰まらねぇ男だぜと続け、会話の中心を自身に持っていく。 あんな仕打ちを受けながら、どうしてこんな男を信じる事が出来たのか。 その理由を知りたかっただけだ。誰かを信じる事が出来ないから。 こんな世迷い事を口走ってしまったのは酒に溺れたからで、 騒ぎ立てるエースをどんな偶然か見つけてしまったの顔、あの表情。 目にした瞬間、もう我慢は出来ず、過去の行為なんて全て忘れ近寄った。 強張った表情のの横には、男がいた。一気に血が上り、辺りの音が息を潜める。 近くに座っていた客のテーブルに飛び乗った。 悲鳴のような声が聞こえた気がしたが、よく覚えてはいない。 そんなエースの姿を見ても驚きこそしなかったは顔色ばかりを青白くさせていた。 目の前で血塗れにされる連れの男を呆然と見下ろし、視線をエースに送る。 止めても無駄だと分かっているからだ。只、何故ターゲット化されたのかは分からないまでも。

「今更、何なのよ。全部、台無しにして!!」
「あいつの事、信じてんのか」
「何?」
「他の女と何してるか分からねぇ野郎じゃねぇか」
「あんただって、同じでしょう」
「まぁ、そりゃあ。違いねぇが」
「あぁ、もう。早く酒が抜ければいいのに」
「何言ってんだ、とっくに酔っちゃいねぇぜ」

ずるくも、が許してくれると知っている。 あんな事をしても許したのだ。だから今、こんな事をしても許す。 エースももずるいだけだ。許される現状に甘んじているエースも、 最終的に結局は許すもずるい。周囲にどんな被害が及んでも許してしまうから、 だから、二人っきりになってしまう。二人だけが取り残されてしまう。

「…信じてなんか、いないわよ」
「あ?」
「あたしは誰の事も別に、信じてなんかいないわ」

只、許しているだけだと呟いたは、あの頃とは違う眼差しをしている。 もう涙は流さないという所か。それならそれで、都合がいいと思ってしまうから、 厚かましくもの腰に腕を回し引き寄せる。お望みの結末はここに。 抗う事を放棄したがそれを兼ね備え、エースを迎えるだけだ。


2010/3/2(最悪の結末…)
模倣坂心中