それくらいは許して

君よ俺に染まれ

歯をたてられ、思わず痛いと呟き腕を振り上げた。 甘噛みなんかじゃなく、犬歯が思い切り突き刺さる噛み方だ。血が出ていた。

「……何なの?」
「いや、邪魔くせぇ刺青だなと思って」
「消さないわよ?」
「そんなもん、消しちまえ」

の左腕には古い文字の刺青が入っている。彼女自身にも解読が出来ない文字だ。 物心ついた時には既に入っていた。 どうやら産まれに関係があるらしいが、余り関心がなかった為に放置している。

「何度も言ったけど、これは海賊とは何の関係もないのよ?」
「ふーん」
「あんたの背中とは違うのよ?」
「へーえ」
「そもそも噛んでどうなるの?」

まるで吸血鬼にでも噛まれたかのように丸く開いた二つの穴からはうっすらと血が滲んでいる。 まったくその気のない返事を返すエースは、 きっとの話を信用していないのだろうし、 これから先も何かにつけ刺青を汚そうとするのだろう。
「どうして、そんなに疑うのよ」
「なら、何で海賊やってんだよ」
「あんたも同じでしょう?そもそも、どうしてそんなに嫌がるの」
「お前が俺のにならねぇから」

打算的な彼は刺青を消せば少しは変化が訪れると思ったのだろうか。 これはのアイデンティティだ。だから消えないし、何も変わらない。

「あんたのところの親父さんは、そんな些細な事にはこだわらなかったけど」
「うるせぇな」
「あたしは、あんたの下にはつかないわよ?」
「あぁ」

本当にうるさいと呟いたエースはの背後から首筋に噛み付く。 独占欲にまみれた彼の思いは決してに届かず、目に見える傷跡ばかりを残した。


2010/3/14(普通に痛そうだと思いました)
模倣坂心中