やり直せなくて

荊棘籠

事後の白々しさが余りに窮屈で、すぐに部屋を出て行こうかと思っていたエースは生まれて初めて躊躇した。 心が動きたくないと駄々を捏ねたのだ。そんな経験はした事がなく、 戸惑っていればの啜り泣きが聞こえ、それこそ居た堪れなくなる。 聞くまでもなく彼女は今まさに後悔をしているのだろうし、その原因は自身とエースだ。 小さな彼女の身体を掴まえ、好きなようにした。光のように煌く彼女が羨ましくて、 誰からも愛され必要とされる彼女が羨ましくて、疎ましくて。 そうして恋しくて。愛しくて堪らなくて。欲しくて。そう、欲しくて。 こうなる事は分かっていたのに。の側にいても何一つ幸せなんて沸いてこず、 どちらかといえば全て壊した。泣いている彼女を背後から抱き締める権利なんてエースにはないし、 彼女はそれを求めていない。それでも腕を伸ばせば振り払わず、もうそんな気もないのだ。 エースに構う余力さえない。いや、違う、違うんだよ、。 俺ァお前を傷つけたかったわけじゃあねぇ、そんな、そんな風に涙を流させたかったわけじゃあ。 誰からも愛されて、求められて。そりゃあたまには嫌な事もあるだろうが、 そんなものを覆すほどの強さを、光を。何にも敵意を持たず、優しさを武器に皆を守り、 そうしてだから愛されて。触れたら指先からその光が浸透するとでも思っていたのだろうか。 そう思っていたとしてもだ。昨晩、の体内に注ぎ込んだ精液が内部から光を奪ったのかも知れないし、 抗いようのない感覚を覚えたが微かに求めた指先から光が失われたのかも知れない。 頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような混乱に乗じ気持ちよさで判断力を失くす。 感情も感覚も全てが気持ちよさだけで埋まり、絡めた舌の覚束ない反応。 セックスの最中のみ得た満足感は気持ちのよさだけで、放出してしまえば砂のように消え去った。 だから今、この小部屋で動く事の出来ないエースは、次の行動を考えている。


「…、俺は、お前を」


乾いた唇が震える。言葉の続きを耳にしたが振り向いた。その表情は。

2010/4/17さて、エースは何を言ったのでしょうか(クイズ…!?)
模倣坂心中