これっきりの今日とあなた
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艶やかな花殻
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口先だけの会話を楽しんでいる自身を知っている分、
まさかそいつが己の首を絞める事になろうとは夢にも思わなかったわけだ。
感情よりも目的を優先してしまい、まずは味見を、だなんて正直なやり方をしていた。
正直だと思うのはきっとエースだけで、相手からしてみれば堪らなかっただろうとは思う。
まあ、そんなものは全て事後論になってしまうわけで、後悔だけはしないようにと生きている類だ。
だから、考えないようにしている。というか、これまで考えた例がなかった。
後にも先にも後悔の残らないような人生を、生き方を。
「ちょっと。あんた、何をぼーっとしてるの」
「ん、あぁ?」
「遊びで来たわけじゃないのよ?」
「分かってるさ、うるせぇな」
「一々、一言多いのよねぇ」
「…」
今、とエースは、とある港町の古ぼけた宿にいる。
先日、船から逃げ出した海軍側のスパイを粛清する為にだ。
あの男がこの港町に逃げ込んだという情報を聞きつけ、
隊長格が話し合った結果(話し合った、というかまあ、じゃんけんだ)
が粛清を行う事となり(彼女は気づいていないが、
じゃんけんの際、ちょきを出す癖があるのだ)やれやれと腰を上げれば、
このエースが俺も行くと声を上げた。結構よ、と断るにしつこく食い下がり、
果ては親父にまで連れて行ってやれと言われれば断る事も出来ない。
隊こそあれども、元々は単独で行動する事が多かったの事だ。露骨に嫌な顔をした。
「なぁ、」
「何よ」
「あんた、どうして一人で出て回るんだ」
「別に、誰かと一緒に出なくてもいいでしょう」
「俺が知ってるだけで、たった二回だ、二回。他のヤツと出たのは」
「…何よあんた、気持ち悪いわね」
「マルコとしか、出ねぇじゃねぇか」
「…」
そんな事を言うつもりではなかったのに、やはり余計な口を挟んでしまう。
いやいや、決してそんな意味じゃあねぇ。そんな深読みはまったくもって不必要だぜ、。
顔色こそ変わっていないが、内心は上へ下への大騒ぎだ。
濁った窓から外の様子を伺っているは視線をこちらに向けない。
どうにもに対してだけ、嫌になるほど失言が積み重なるらしい。
彼女は気づいているのだろうか。あの日、と派手に遣り合ってからというもの、
勝手にこちらは距離が近づいたと思っているわけで、
どうにか美麗に自身を売り出そうと思っているが悉く失敗に終わっている。ような気がする。
上手くいっているとすれば、もっと何かしら手応えがあるはずだし、
とっくには自分の腕の中にいたっておかしくないとさえ思う。
自意識過剰かも知れない。こんな、ベッドと小さな冷蔵庫しかないような部屋に二人でいるとなれば、
まぁとっくに懇ろになっていても不自然じゃあない、というかむしろなっていない方が非常に不自然だ。
それなのに腕一つ伸ばせないでいる。いや、が怖ぇとかじゃあ、なくて。多分。
「ほら、来た。行くわよ、エース」
「あ?」
窓を開け、曇った視界に光が飛び込んだ。まずが飛び降り、それを追うようにエースも飛び降りる。
の視線を追えばターゲットの動きも容易く把握でき、
まずは逃げ道を塞ごうと掌を広げれば、の手がそれを掴んだ。
周囲を巻き込むなという事だ。面倒な女。思わず呟く。
どうやら彼女は、そんな些細な独り言にも気づいていたらしく、眉間に皺を寄せたまま手を離した。
2010/5/8(『透明な破片の残骸』の続きです)
模倣坂心中
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