あいつは今日も帰らない

終わりのない演目なんて興醒め

「なぁ、今日はどこに行くんだい」
「何よエース、聞きたいの?」
「あぁ、知りたいねぇ。俺ァお前の事なら何でも知りてぇ」
「又、そういう事、言って」
「今日こそ俺と遊んでもいいじゃねぇか。毎度お預けも大概飽きた」
「駄目よ、駄目」
「どーして」
「先約があるの」


船から降りる彼女の姿は見紛うようなドレスコードに彩られている。 皆、彼女のそんな姿は一度くらい目にしているし、その理由も知っている。 それでもエースのように声をかけない理由は只一つ、素性を知っているからだ。 一筋縄ではいかないどころじゃない、取って喰われるのが関の山。 まるで狩りをするように男を喰らう彼女を知っている。 マルコに至っては、その歯牙にかかりかけ、ギリギリの所でどうにか逃げ出したらしい。 深くは語らないが、結局は喰えなかったと自身が言っていた。 そんなに危ない女だと皆が知っているからだ。知っているから余計に手を出したい。 そんなエースも危ない男だと、不特定多数の女達は思っている。 同じような匂いがするから、誰よりも敏感に察知出来るのだ。 仲間内では暗黙の了解で、あの女と関係は持つな、そんなルールが出来上がっている。 巷にはに取って喰われた男達がゴロゴロと転がっているし、 行く先々で絡みの厄介ごとが待ち構えている。男達は口を揃え、 ロクな女じゃないとの事を言う。皆、一様にそう言う。 どんな風に、ロクでもないのかと、そこを知りたくなってしまっただけだ。 なぁ、それなのに。お前はどうしてこの俺に歯牙を向けやしねぇんだよ、


「なぁ、
「何?あたし急いでるのよ、エース」
「お前の身が緩い理由は何だい」
「あんたみたいな男が多いからよ」


死ぬまでぬくぬくと平穏な愛情に包まれて生きるだなんて願い下げだし、 終わりがあるから楽しいんじゃないと平気な顔をして言ってのける。 あんたみたいな、という事はまあ、エースみたいな男に弄ばれた過去でもあるのかと勘ぐれど答えは出てこない。 は何も言わないからだ。にっこりと優雅に笑った彼女は細い指先でエースの額を押し、歩き去った。

2010/5/20(マルコ危機一髪)

模倣坂心中