今度はいつ逢える

最も忠実なる冒涜者

彼女の煙草は甘い香りがする。ハナにつく匂いだ。 だから、が訪れたかどうかなんてすぐに分かる。 昔からずっと変わらず同じ銘柄を吸い続ける彼女は、 まあ嗜好品以外も全て何ら変わらず、つかず離れずの距離を保っていた。 新世界に入り、スペード海賊団を旗揚げした頃からの付き合いだ。 港町の酒場の女だと思っていれば、彼女も一端の海賊だったわけで、 女にゃこんな世界は似合わねぇ、だとか何とか。そんな事を口走っていたような気がする。 あの頃は確かにまだガキで、相手を品定めする以外、やり方を知らなかった。 全て燃やしてしまえば、まぁ仕舞いだと思っていたから。


「お前、俺がいねぇ時を狙っちゃいねぇかい」
「だって、あんたに用があるわけじゃないもの」


出先から戻れば、件の香りがハナにつき、辺りを見回せどの姿は見えない。 匂いの元を辿ればマルコの部屋へ辿りついたものだから、こう、何ともいえない気持ちになった。 昔からそうで、一度手にしたものはずっと延々自分のものだと思えて仕方がない。 他の人の手に移るにしても、こちらの了承が必ず必要だ。 そうでなければ、そんな風に筋の通らない話はないと、まあ、血を見る。


「お前んトコ、最近どうなんだよ」
「どうもこうも、変わらないけど」
「この前、海軍と派手にやりあったろ」
「今に始まった事じゃないからね、定期的にやるお遊びみたいなモンよ」
「お遊びねぇ…」


左腕全体に巻かれた仰々しい包帯や、微かに腫れの残った頬を見つめる。 とんだお遊びがあったものだと笑えば、嫌そうに視線を逸らされる。


「で、何だよ。マルコに用事ってのは」
「だから、あんたには関係ないでしょう?」
「別にいいじゃねぇか、マルコはいねぇんだし」
「え?今日いないの?」
「今日は島の見回りに行ってるぜ、一日は一番隊の担当だからねぇ」
「ちょっと…そんなの、聞いてないんだけど」
「そりゃあ、知らねぇが」


どんな用件があったのかは分からない。 は大きな溜息を吐き、すぐにでも船を降りてしまいそうだったから、 まず肩を掴み足を止めさせた。何よ、何か用なのエース。が振り返る。


「そりゃあ、ちょっと冷たすぎるんじゃあねぇかい」
「だから、あんたとは特に何もないでしょう?今も、昔も」
「馬鹿言うなよ。今も昔も、お前は誰よりも俺に近ぇ癖に」
「何よその理由」


自らの意思で、に秘密を告げた事がある。 あれはまだ自身が船長をしていた頃だったから、昔の話になる。 同等の力を持つに手を出したエースは、何故か理由こそ分からないが、ポツリと口を滑らせた。 俺の親父は。窓際で煙草を吸っていたは、へぇ、等と短い相槌を打ち、 それが本当なら笑える展開だと続けた。何が笑えるのか。 少しだけ腹が立ち食ってかかれば、あたしもそうよと、こちらを見ずに呟く。今度はエースが聞き返す番だ。


「あんたは愛された子でしょう」
「どうだかな」
「少なくとも、あたしより望まれた子よ。親にはね」


自分の父親が過去に何をしてきたのかは知らないが(そもそも知りたくもない)は、 どうやらその結果ついてきた負の遺産らしい。恋愛関係があったかどうか、 結局母親はを身ごもり、父親はその存在さえ知らない。


「お前と俺は、同じだな」
「だからって、二度は寝ないわよ」
「義理堅ぇこった」


顔を近づければ掌で押し返され、はするりとこの腕を抜けていく。 じゃあ、またな、。大声でそう叫べば、振り返らずに右手だけを上げた。

2010/6/10(まさかの近親相姦ですかという)

模倣坂心中