欺けるように なっていた

架空の形

一体何を考えているのと言われ、大して何も考えちゃいねぇが、そう思いながらぼんやりと視線を泳がせた。 そうしたらまあ、何の事はない。女はエースの頬を強かに打ち、そのまま踵を返す。 よくある光景のようだが、この一週間の内、まさかの三度目だとは流石に笑えた。 お前の事は好きだが、他の女に視線を奪われちまうんだよと、 心の言葉をそのまま伝えれば彼女はもっと激昂するだろう。だから本当の事は口にしないのだ。 頬を腫らし船へ戻れば、又やったのかと顔を合わせる仲間に言われ、笑われる。 つられてエースも笑った。


「よぉ、エース。こいつは又、男前になってるじゃねェか」
「嫌味かよ、サッチ」
「どうにも、今週はお前が男前に見えて仕方がねぇな」
「まぁな」


もててもてて、女が俺の事を放っとかねェんだと笑う。


「そういや、が来たぜ」
「何?いつだよ、まだいるのか?」
「ついさっき帰った」
「何だよ、それ」


今すぐに追えばまだ掴まるんじゃねェかと、サッチが言うよりも先にエースは飛び出していた。 あんな頬をしたまま顔を合わせるつもりなのかと思うが、感情が先に立つ人種だ。 そうして、感情よりも先に身体が立つ。すっかり見えなくなったエースに向かい、 気をつけて行って来いよと手を振れば、お前は本当に性格が悪いんだよぃと、背後からマルコの声が聞こえた。














「…邪魔なんだけど、あんた」
「酷ェな、。久々じゃねぇか」
「船を沈没させるつもりなの?ねぇ、あんた。あんたごと海に引きずり込んでもいいのよ?あたしは」
「そんなもんは、この俺も本望だろ?」
「用件は、何?」


相変わらず冷たいものの言い方をするは、エースから一定の距離を保っている。 絶対に近づく事の出来ないテリトリーだ。そうして余り笑顔は見せない。 マルコやサッチと話をする時は、ころころとあんなによく笑うのに。


「いや、別に。用件ってほどじゃねぇんだが」
「じゃ、どいて。あたしはこれから用事があるの」
「どんな?誰と?いいじゃねェか、俺と話をしてようぜ」
「…あんた、あたしの話、ひとっつも聞いてないわよね?」


じりじりと距離を近づけ、どうにかの船に乗り込みたいのだが、 下手な真似をしたらば最後、海に突き落とされかねない。 なぁ、一体。俺の何がそんなに気に入らねぇんだ。


「俺ァ、お前を気に入って―――――」
「頬が腫れてるけど」
「!」
「そんな事ばっかり言ってるからよ」


にっこりと笑ったに見惚れている間に、エンジンを噴かしたらしい。 船が急に動き出すものだから、大きく体勢を崩し、危うく海に突っ込むところだった。 盛大な水飛沫を上げながら、瞬く間に消え行く彼女を視線で追いながら、 まったく何もかもが上手くいかないものだと、笑った。

2010/7/13(に、日常・・・)

模倣坂心中