時を止め 君を連れ出して

拍手も然り、煩いくらいが丁度良い

危機感一つ持たず、露な胸元を晒すわけだ。 まるでお遊びのように舌を出し、強く吸い込む前に離された。 二の句を告げようとしたが、辺りの喧騒にかき消される。 こんな盛り場の雰囲気は常に変わらず、これから先の展開を思い描くも、 まずこの場から彼女を連れ出さなければならない。面倒だ。 だからといってこの場で彼女を押し倒しても冗談ですまされてしまうし、 公衆の面前で営むわけにもいかないだろう。火を纏う身体がジリジリと焼け付くようだ。 アルコールが箍を壊し、寸でのところで爆発を止める。 又、誰かが冗談を言い、の肩に腕を回す展開が巡ってきた。 何一つ反応を見せない彼女を横目に、回した腕ごとこちらに引いた。 しな垂れかかるの身体、こちらに向けられない視線。この夜は彼女のものだろうか。


「…なぁ、
「何よ」


彼女の唇から離れるグラス、唇に乗った水滴。 吸い付けば甘い痺れが舌先を襲った。酔いが一気に回る気がする。 誰かがお持ち帰りかよ、だなんて下卑た言葉を投げつける。 いいから邪魔をするんじゃねェよ。笑いながらそう言えども、は何の反応も見せない。


「三度目」
「何?」
「あんた今日、三度目よ」


キスするの。今度はが笑いながらそう言い、何故だか急に気恥ずかしくなったエースは数えちゃいねェが。 言葉に詰まった。


「どういうつもりなのよ、エース」
「…」


別に今夜だけってわけでもねぇし、お前にはいつだって会えやするし。 どこかのテーブルで盛り上がりが爆発した。音の洪水に押し流され、皆の視線が奪われた瞬間、 がエースの唇に噛み付いた。意識がぐっと連れ戻され、急かされるように舌を絡める。 の身体がエースの重みで崩され、覆いかぶさるように口付ければ、 こんな所で盛ってるんじゃねェよとマルコに後頭部を叩かれ、 唇が離れた瞬間、が笑い出すものだから、 何だか全てが馬鹿馬鹿しくなり、彼女を抱え上げ店を飛び出した。

2010/7/21(マルコは『げっ』と思ったはず)

模倣坂心中