答を探し求めている

あなたが辛くなるまで

黙ったまま眼差しを向け、煙草を投げつけた。 顔に当たる寸前に掴むんだエースは、機嫌が悪ぃなと呟き、一本取り出す。 元よりにはそんな節があるわけで、人目が少なくなればなるほど彼女の仮面は剥がれていく。 にこやかで、人当たりがよく、いつも笑顔の。 誰からも愛され、誰からも欲され、男なら見逃すはずがない。 慈愛に満ちた彼女を誰もが愛している。はずだ。 キャソールと下着のままベッドに寝転がったは、こちらに関心さえ向けない。 冷たい女だと知っているのはきっとエースだけで、だから満足している。 自分だけしか見せない面が存在するという事実に満足している。 けど、お前は余りにも俺に冷た過ぎるんじゃあねェか?


「持って来たの、アレ」
「あァ」
「早く頂戴」
「そう急かすなよ」


そういう所がお前はいけねェんだと呟きながら、小瓶を取り出した。 濃い緑色の錠剤。仮面の剥がれたはこれがなければ生きていけない。 いや、これがあるから周到な仮面をつける事が出来るのだろう。 ある程度の付き合いが続き、それに気づいた。 と自分との共通点は愛情の欠如だ。飢え、生きてきた。 だから今になり人々から頂戴する愛情を手放す事を恐れ、それなのに疑わずにおれない。


「酒で流し込むのはよくねェ」
「何よあんた、あたしの親なの」
「いや」
「だったら、そんな口を利かないで」


即効性の高いこの錠剤は様々な効果を見せる。幻聴、幻覚。 浮遊感、抗い難い感覚を齎す。故に中毒性も高い。だから親父は嫌うはずだ。


「奥歯で噛んだ方が、効くのよね」
「俺ァ知らねェよ」


冷たい眼差しがもう一度こちらを捕らえ、噛み潰す音が聞こえる。 もうじきは記憶を失くし、我を忘れ、何者からも解き放たれる。 まるで子供のような笑顔を見せ、だらしなく四肢を伸ばしきる。 そんなの手を取り、優しく抱き締め眠る。 明日の朝まで君と二人きり。傷を舐めあっているのだろうかとも思うが、答えの出ない疑問は捨てる。 横になったが軽く痙攣を起こした。もうじきだと思い、隣に腰掛けた。



2010/8/10(久々に書いた気がしている。エース。)

模倣坂心中