最後の青さ
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臨終の時に
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明かりの消えた部屋を見上げれば、よれたカーテンが目に付き、
既に空っぽになってしまったのだろうと思った。出会いを求め抱き締めたはずなのに、
やはり触れられるものは身体だけだったようで、は姿を消してしまった。
だから、ここはとっくに思い出だけの場所と化し、現実はなくなったのだ。
困ったねぇ、等と一人言ち、それでも今更引き返す事は出来ないと知っていた。
悪い夢から醒め切れないのだ。非常に毒素が強く、脳髄まで麻痺してしまった。
階段を抜け、施錠されたドアを破ったエースは蛻の殻となった室内を見渡す。
家具は捨てていったようで、必要最低限の荷物だけを持ち、彼女は姿を眩ましたらしい。
ベッド横のテーブルに倒してあった写真立てに手を伸ばす。
「…馬鹿な女だな」
まぁ馬鹿なのは俺も同じかと呟けば、何だか救われない話のようで嫌になった。
日に日に大事な部分を失い、形ばかりを整えた思い出に縋り、
もう一度あの頃の(俗に言う、幸せな)二人を取り戻したかっただけだ。
の意思はお構いなしに。皆から祝福され、
きっと運命なんてものからも祝福されていると思っていた。
最初から分かっていたはずのズレも見抜けず、浮き出た辺りには後戻りさえ出来ない。
譲る事も出来なかったエースはを変えてしまえばいいと、まあミステイクだ。
そう、思ってしまった。そうして行き詰まり、逃げ出したというのに。
今更だとは泣き、そんな事は分かっていると呟き、
もうどうしようもない心を出来れば奪ってくれと告げればこの有様だ。
唇を離した直後、合った視線。目じりから零れ落ちた涙。
同じ事を繰り返していると分かっていた。
「…」
今になり恋をしていたのだと知る。俺はあいつに恋をしていたのだ。
こんな心はとっくに置き去りにされ、時間ばかりが過ぎていく。
恋をしていた自身さえ忘れる事が出来ず、未練がましくも思い出に縋るような真似を。
のいない部屋に一人立ち、窓から外を見下ろす。
彼女の見ていた景色は普遍なく、全ての影を隠す。
きっと、この部屋から出て行くエースの影も隠しゆく。
2010/9/16(し、失恋…?)
模倣坂心中
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