俺は嘘を信じるよ

愛の誓いなんか目じゃないから

突然何を言い出すのと、強張った笑顔を向けたは執拗にこちらを見ないもので、 だからエースは溜息を吐き出し、重い腰を上げた。 がこちらの言い分を分かってくれるだなんて、そんなにも都合のいい展開は流石に望んでいないわけだ。 きっと、これまでと同様に何て我侭な男なんだと彼女はこちらを責めるだろう。 そうして泣き、結局は受け入れる。生き様自体が非常に我侭なんだと自分でも分かっているつもりだ。 それでも治す気すらなく、同じ事をやり続ける。そんな生き方しか出来ないからだ。 これまで、ひたすらに前だけを見つめ生きてきた。 途中、色んな女に寄り道をしたものの(正直な俺の体は女なしじゃ生きていけねェもんで) 横に並び走る事が出来たのは、このだけだ。だから最後までこちらの我侭を聞いてもらおうか。


「俺ァ、長生きは出来ねェ」
「何よ突然」
「まあ、そんなもんは俺だけに限らねェ。俺もお前も海賊だ。長生きしようだなんて思う生き様じゃねェからな」


最後の願いだと口にしても、恐らくは信じないだろう。自分でも信じられないのだ。 を愛する気持ちは確かにある。誰にも渡したくないと正直に言えるほどにはある。 それでも生き方は変えられない。


「お前の側じゃ、俺ァ多分、死ねねェ」
「…」
「だから、殺してェんなら、今殺しな」
「…」


はこちらを見ずに、きっと泣いているのだろう。卑怯な言い方だ。 もう戻って来れないかも知れない、その言葉を使う事が出来ず、命を駆け引きに持ち出した。 本心ではある。に殺されるなら、それはそれで問題の無い人生だ。 愛している事の証明さえ、そうしなければ出来ないのに。


「どうして、そういう事を言うのよ」
「俺ァ、お前を愛してる」
「身勝手な男の癖に、あたしの心を死ぬまで縛るつもりなの」
「あァ」
「あんたが死んだ後も、あたしがあんたを愛するように」
「そうだ」
「あたしは死ぬまで苦しむのね」
「…そうして欲しいんだ、俺ァ」


ロクでもねェ男だから。忘れないでくれと縋る事さえ出来ず、言いくるめる術さえ持てない。 背後からを抱き締めれば小さな彼女がすっかりと隠れ、傷さえつければ忘れないのかと、 頭の中で誰かが囁く。確信の持てない問いに、返す言葉を失う時間を恐れるくらいなら、 もう少し傷つけてやれと考える自身に僅かばかり嫌気が差し、どうにか口を噤んだ。



2010/11/3(性質が悪い)

模倣坂心中