あなたの終わりと私の始まり

凍りつく涙をいくつ振り切れば
この夜に別れを告げられるのだろう

船を出ると告げたエースに対し、正直な所言葉を失ったは 約束なんてものをしたがる目前の男に嫌悪さえ覚えたわけで、脳死状態のまま指切りを交わした。 俺は絶対に戻ってくるから。そんな言葉を臆する事無く口にするエースは大概な男だ。 知っていた。微かな温もりを残した小指を見送り、漠然と終わりに包まれるが口にする事が出来ず、 呆けちまってどうしたんだと笑うエースを只、見上げる事しか出来ない。 全てを知っていたからだ。この世の理、全てを知っていたから先が見えた。 きっと当のエースも同じだっただろう。それでも言葉に縋る。永遠に残るように。


「…よォ、
「シャンクス」
「いいのか」
「いいわけないでしょう」


聞かないで。全てを終わらせたシャンクスに礼を告げ、立ち去る瞬間の出来事だ。 持ち合わせた花束を海へ放り投げ、マルコ達の元へ向かおうと思っていた。 親父が死に、統治していた島は荒れた。そうなる事は誰しもが知っていて、 だから悲しみに飲まれる暇もない。島に残ると告げたに、 行って来いと返したマルコの真意は分からないが、一番隊隊長にそう言われれば断る事も出来ず、 こうして進まない足取りで向かった。全てが終わった場所に。 の姿を目にしたシャンクスは微かに笑み、良く来たなと出迎えたが、 今だ胸中の整理はついていない。雑な挨拶をすませるに留まった。


「残念だ」
「そうね」
「なァ、
「悪いけど、そんなに時間がないのよ」
「…」
「感謝、してるわ」


こうなる事は分かっていたはずだ。エースの生まれや生き様、 それら全てがこの結末を示唆していた。その場限りの怠慢な喜びは言葉と身体で彩られる。 心は存在しない。思いでも全てその二つで作られる。心なんてものは、 後から手を伸ばす拙い付属品だ。この海の上で生きる以上、こんな局面には頻繁に遭遇する。 確かに今回の局面は世界さえも揺るがす大きな舞台で迎えたが、 自身に対する影響はその他と何ら変わりない。この海は全てを飲み込む。 そうしてあるがままの姿で、当然のように存在する。戻ってくると告げた男をそのままに、 その嘘を甘んじて受け入れ、口にしなかった女さえそのままに―――――


「エース…」


人気のない場所で膝をつき、嗚咽を漏らす彼女の姿は余りに小さく、そうして儚い。 居た堪れないと雑に髪をかきあげたシャンクスは、 こちらも居た堪れないといった様子で溜息を吐き出すマルコに遭遇する。 早めに仕事を終え、多少なりとも心配だった為、迎えに来てみればこの有様だ。


「…お前も大変だな」
「…うるせェよぃ」


命を喰らい佇む海を背景に、小さく痛んだ心を見つめる。 そんなものが自分にはあったか、だなんて詰まらない事を考えはしたが、 どうやらすっかり海に飲み込まれているようで、欠片さえ見つからなかった。



2010/12/31(書きたかった話です)

模倣坂心中