ここで救われるのは私が最後

奇跡の執行人

昔から自分だけの世界で生きてきた。自分以外は誰もいない世界で、自分だけを守り慈しみ生きてきたのだ。 確かに無知ではあったが、この身を脅かす存在から自身を守る為に刃を磨いた。 他者は確実に自分を傷つけるのだと思い、まあ確かにそれはあながち間違いではなかったのだが、 だから傷つけられる前に傷つける。育つほどに力は増し、傷つけるだけのつもりが命まで奪う。 だけれど、そんな結果に疑問を抱かなくなった。案外、あっさりと。


「…どうして」
「どうしても何も、お前は俺の仲間だろ」
「だからって、なんで」
「俺ァ、マルコじゃねェから、無傷ってわけにゃいかねェが」


そんな、何とも哀れな生き様を人目に晒したくなく、全てを終わらせるつもりで挑んだ相手が白ひげだった。 随分昔の話だ。そんなに怯えて、何をどうしたいんだと白ひげは言い、 ああ、自分は弱かったのだと知った。怯えているから傷つけるのだ。 まあ、笑えないほどこてんぱんにやられたは彼の船で目覚め、 生まれて初めて自分以外の人間と暮らす事になった。 最初の頃は白ひげについて回り、理由ばかりを求めたが、結局は自身で導くしかない。


「あたしの為に、血を流さないで」
「お前の為なら、苦でもねェさ」
「エース…!!」


敵対する海賊との戦いの最中、身を挺し仲間を守りはしたものの、 その代わりに捕らえられただなんて笑い話にもならない。 海の藻屑にでもなったと思ってくれれば最上、それなのにエースは来てしまった。 こんな、間抜けを助けるために。


「けど、こりゃあ手数が足りねェ。、動けるかい?」
「ええ」
「俺とお前、二人で抜けるぜ。どっちも欠けねェ、二人でだ」


ぎゅっと強く握り締めた手。息が詰まるほど苦しくなったが声には出さない。 こんな所で涙を零すわけにはいかない。まずはエースを安全な場所に導かなければ。 エースから産まれる炎が辺りを包み、轟々と音をたてた。 焼けるような暑さが肌を包みキナ臭い香りが漂い始める。 まるで命を燃やしているようだと感じ心が逸った。 こんな所で、こんな自分の為に命を削るだなんて、そんな馬鹿な話があるか。 この身を犠牲にし守るのは自分の仕事だと思っていたが、どうやらエースも似た考えの持ち主らしい。 置いていかれる恐ろしさを知っている二人だ。置いていかれる淋しさに耐え切れない、弱い二人。


「俺ァ、お前を一人にはさせねェ」
「知ってる」
「たった一人ぼっちで、いかせてたまるか」


大きく飛び出したエースは、長い腕を伸ばしを捕まえた。 燃え盛る船を見下ろし肌を掠める弾を見送る。 エースの呼吸は上がっており、無理をしているのだと今更ながら実感した。 身を粉にした、そんな彼が悲しくて、勝手に流れる涙は潮風に掠め取られる。


「俺が死んでも、。お前は守る」
「冗談じゃない、やめて。やめてよエース」
「だったら、お前も俺を守って死ぬなんて」


そんな馬鹿な真似はやめろ。誰かの命を捨てきれず、無駄な傷ばかりを追う若さに辟易としている。 それなのに他のやり方はとんと浮かばず、只二人、がむしゃらに命を盾にし互いを守っていた。



2011/2/16(似たもの同士)

模倣坂心中