人生が儚く虚しいなんて考えてた訳じゃない

寂しい葬儀

そういえばは最後までこちらを見ていたなと、そんな昔の事を思い出した。こちらの姿が見えなくなるまで、あの女は片腕も上げず只々こちらを見ていた。船に乗っている頃からの視線は常に感じていたし、恐らくもこちらの視線を感じていただろうと思う。臆病にも手は出せず、だけれどこの眼は姿を追ってしまう。そんな、まるで純愛にも似た無様な思いを抱いていたはずだ。きっと、互いに。 誰しもが知っていて、誰しもが知らない。彼女を抱いていない事も、互いの気持ちを確認していない事も、さよならさえ告げていない事も。サッチの一件後、すぐに船を出る覚悟を決めたエースに、は何も言わなかった。驚くわけでもなく、止めるわけでもない。恐らく彼女は知っていた。そうなる事を。だからというわけでもないが、無論エースも何も告げず船を出る日を迎えた。は確かにこちらをずっと見ていたし、エースは一度として振り返らなかった。


「…」


あの日以来、の事は知らない。彼女は帰りを待つとも言わなかったし、さよならも何も言わなかった。ティーチを見つけるべく海原を渡っていたエースと連絡を取るのは至難の業だ。だけれど忘れない。恐らくはも自分と同じように一人の夜、空を見上げ何事か思っていたはずだ。確証など一つもなく、只感覚だけでそう思えた。 傲慢だろうか。時が経てば経つほど帰り道さえ分からなくなり、思い出は色濃く存在を増す。いい事も悪い事も含め、只々縋る相手となる。だから別に淋しくもないし悲しくもない。だけど。


「ゼハハ…!」
「…」


こうなってようやく、二度と会えないのかと残念に思うだけだ。こんな俺の命なんて何の価値もないが、いつどうなっても構いやしないが。あいつが悲しむのは嫌なのだと、只そう思うだけだ。 だってお前、俺が死んじまったら泣くだろ。まあ、そりゃあ、俺も、同じだが。薄れゆく意識の中、浮かぶのは走馬燈でなくの姿だけで、こんな思いを抱く瞬間に彼女が側にいない事を悔やむだけだ。



2015/12/18(ティーチの野郎に負けたとこです(腹ただしい!) )

模倣坂心中